静と動のミステリ絵本
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ジョン・クラッセン『どこいったん』(クレヨンハウス、2011)
ジョン・クラッセンの2つの絵本『どこ いったん』(クレヨンハウス、2011)と『ちがうねん』(クレヨンハウス、2012)は大阪は藤井寺出身の絵本作家・長谷川義史が大阪弁で翻訳している。
この両者はミステリとしてみると性格に違いがある。前者は「犯人探し」(whodunit)タイプだ。定石として犯人は読者の前に現れているのだけれど、見事に最後まで気づかせない。後者は犯人が初めから分かっている「倒叙」(inverted)タイプだ。
長谷川さんは「ちちんぷいぷい」(MBSテレビ)で時々やる紀行企画「とびだせ!えほん」に出演し、各地の風景を描いている。そのスケッチのひょうひょうとした味わいは一度みたら忘れられない。ここでは大阪弁での翻訳で絵本の新境地を開いている。
主人公とおぼしいクマの二つの相が気になる。静と動だ。ほとんどの場面でクマは手を両脇に下ろしている。静かにぬうと立つ姿からは何を考えているか、つかめない。クマは自分の帽子が行方不明になり、探し歩く。が、なかなか行方が知れない。
あるとき、パッとひらめく。そこからスイッチが入ったかのように動に転ずる。そのとき、クマは両手をふっている。
クマが両手を上げる動作はそれだけで怖ろしい。なにか暴力装置が発動したかのような緊迫感に読者はとらわれる。
クマと他の動物たちとの対話のことばは、大阪弁のせいで一貫してやわらかくひびくが、クマと犯人との関わりの部分だけ、調子が違う。一言でいってとんがっている。それも大阪弁でよく表現されている。
3回読んだけど、読むたびに印象が変わる。多様な読みを生むのは傑作のしるしだ。