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端正な恋物語(同工異曲にあらず)


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南潔『黄昏古書店の家政婦さん ~下町純情恋模様~』

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 誤解を受けやすいタイトルと表紙。しかし、読んでみると、そんなことはない。

 古書店と若い女性。この取合せから想像される、例の謎解きに富んだ、古書の蘊蓄満載の人気シリーズとは趣を異にする。

 これは純粋な恋物語だ。めったに風呂に入らぬ四十手前の古書店主、山下一生と、高校を卒業したばかりの家政婦、菅沼宵子の恋の物語。

 しかし、恋が主題に浮かび上がるのはむしろ作品後半である。それはそうだろう。三食もまともに摂らず、身の回りも清潔にしない男性のどこに十八の女性にとっての理想像が見られよう。したがって、作品前半は、この荒れはてた店主の生活を立て直すことに女性のエネルギーが注がれる。

 作品が幻想味を帯びる瞬間がある。「まんじゅしゃげ奇譚」と題された章で、宵子は神社近くの人気のない道で男の子に出会う。「こーこはどーこのほそみちじゃ」の唄声で気づいたが、通り過ぎたときには気づかなかった子供だ。「ねえ、ぼく。そこでなにしてるの?」と訊くが何も応えぬ。胸に古びた絵本を抱えている。体は擦り傷だらけ。おまけに裸足。そこの用水路は深く、危険なため、宵子は子供を知合いの店に連れて行く。

 ここから子供は不思議な消息をたどるが、山下一生が独自の解釈を開陳し、この店主の深みが読者にも知られてゆく。宵子の見る目も変わる。それからいろいろな小事件が重なり、世間知らずの宵子が人生に倦んだ店主に体当たりでぶつかってゆく。

 いまどき珍しい純愛の物語といえる。めったにルビをふらぬ端正な文体ながら、最後まで飽きさせず、ライトノベルばりの読みやすさで登場人物の群像物語に引込む手腕はなかなかのものだ。めっけもの。
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