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Tigh Mhíchíl

詩 音楽 アイルランド

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第六回創元SF短編賞(2015)受賞作


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宮澤伊織『神々の歩法

 

 うーん。これが受賞作かというのが第一印象。

 ニーナの運命が気になるというのが第二印象。

 英語の発音がおかし過ぎて唖然というのが第三印象。

 そのほか、作品ではないが審査員の短編観に大丈夫かと思った。これが判った以上、今後この人たちが推す短編は短編と思わないことにする。結局、この人たちは長編の世界に住む人たちなんだ。

 結論。この審査員にしてこの受賞作あり。考えてみるとごく自然な成り行きではあった。(もっとも、事情はもっと単純で、審査員の日下三蔵が言うとおり、今回は応募作に〈突出して個性的な作品が見当たらなかった〉ということなのだろう。)

 物語を審査員の大森望が〈米国の戦争サイボーグ部隊が、壊滅した北京の廃墟に派遣され、ユーラシア大陸に破壊をもたらしている神のごとき超人に戦いを挑む〉SFアクションとまとめている。大森は戦闘のディテールを〈さすがにプロの腕前〉と褒めるが評者にはこの戦闘場面が一番つまらなかった。戦闘が進んでいく緊迫感や得体の知れぬ恐怖などがなく、数学的興奮(?)が味わえなかった。この〈神のごとき超人〉は〈高次幾何存在〉であり、次元の差や虚数方向の攻撃手段などが次々に出てくるが、説得力に乏しい。

 むしろ、一番おもしろいのは踊りによる対決だ。これは戦闘場面の前に起こる。ここの着想は秀逸。戦いの前も、都市の破壊の前も、この〈高次幾何存在〉は踊る。それには意味がある。彼らは〈重なり合う無数の……パターン、とでも言うしかないもので構成されててね、そのパターンに従って身体を動かすことで、この世界の外からパワーを得ているの。それがあの踊り〉とニーナは説明する。この踊りは戦う相手に応じて特化された踊りだ。だから、予期せぬ攻撃を受けると対応が遅れることがある。う

 このニーナは凄惨な戦いの現場に天から舞い降りた天使のような存在なのだが、ニーナ自身も悲惨な過去を秘めているらしい。だから最後は米軍へのこれ以上の協力を拒み去ってゆく。でも、これがシリーズ化されれば、なんとなく戻ってきそうだ。

 どうも審査員たちの、長編の一部としての短編、という概念に当てはまりすぎているのが評者には不満だ。短編は必ずその前後を感じさせるものでなくてはならないのか。それは始めに長編ありきの考え方ではないか。アイルランドスコットランドのような短編王国では始めも終わりもなく短編は短編なのだ。それ以外の何者でもない。長編小説とはまったく違う小説ジャンルである。そのような王国では短編を書けるのが真の作家である。だから、逆に長編の質を測るために短編なみの質が一貫して維持されているかどうかが問題にされたりする。英米の短編小説をよく読んでいる村上春樹はだから短編が非常にすばらしい。「象の消滅」の英訳が代表作とみなされるのは当然だ。

 

 

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