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短編集『オーリエラントの魔道師たち』の一篇


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乾石智子『紐結びの魔道師: 1 』

 

 山形県の作家・乾石智子のファンタジー作品。短編集『オーリエラントの魔道師たち』に収められた四篇のうちの一篇「紐結びの魔道師」を、「オーリエラント」の世界の入門書として独立させたもの。

 紐結びの魔道師と貴石占術師(これも魔道師)、および、魔道師を狩る集団・銀戦士との対決をえがく。

 各種の魔法(紐の結び方と呪文の組合せ による魔法、石に宿る力を利用する魔法など)は、それなりによく描かれている。このファンタジー世界の地図(コンスル帝国版図)、年表などが完備しており、その世界の広がりを感じさせる材料はそろっている。

 印象に残る言葉がちりばめられている。たとえば、「強き光は濃き闇を作る」とか、「金茶の髪は秋の陽射しに照らされた森のよう、肌は月を映した湖面さながら」など。

 主要登場人物は、ひとりとしていわくのなさそうな人物がいない。みんな、なにかしらの過去をかかえ、それが対決にからむ因縁となる。ひとりひとりが奥行きをそなえる。

 しかし、物語全体としては、やや稀薄である。有機的なつながりに乏しく、この世界ならではの存在感がうすい。長篇となれば違うのかもしれないが、それなら短篇を問うた意義がどこにあるのか。可能性は秘めているが、一味足りぬ感じの淵源は、ひょっとすると、ネーミングのセンスではないか。「テイクオクの魔法」などの言い方がどうもピンとこない。紐結びを意味するらしいテイクオクの語感が、このファンタジーにとってどういう役割を果たすのか。言葉の響きは大事だ。この用語が出てくるたびに、やや、物語が遊離していく感覚を味わう。

  

紐結びの魔道師 オーリエラントの魔道師たち

紐結びの魔道師 オーリエラントの魔道師たち