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'Joyce's Ulysses: A Guide' (iPad app)


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 2014年6月1日に、iPad 用のアプリとして 'Joyce's Ulysses: A Guide' が出た。註釈や音声をふくむすばらしいソフトウェアである。ジョイスの名作『ユリシーズ』をiPadで縦横に読むことができる。

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 原作の本文全文に加え、800点の註釈がついている。この本文は縦にスクロールするテクストで、文字の大きさが変えられる。註釈は註釈ボタンを押すと註釈箇所の色が変わり、それをタップすると註釈内容が表示される。ラテン語やギリシア語の部分はもちろん、登場人物が最初に登場する箇所にも註釈がある。これが註釈モードであり、再度註釈ボタンを押すと、本文のみのモードに切替わる。

 この註釈のつけ方は本気で『ユリシーズ』を読もうとする人にはありがたい面がある。例えば、'hyperborean' などという単語にも註釈があり、何だろうと覗いてみると、通常の辞書的定義(「極北の」)を超えた、背景を窺わせる註釈になっており、ありがたい(下に引用)。

hyperboreanA reference to Nietzche's Übermensch (Superman), a person beyond conventional morality. Originally drawn from the ancient Greek reference to the Hyperboreans, who supposedly lived in the far north of Thrace.

 

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['hyperborean' の部分が薄褐色。タップすると画面右下の註釈が表示]

 

 本文の抜粋部分の朗読がついている。冒頭のマーテロ・タワーの場面などは海岸のカモメの鳴き声や波の音などの効果音入りである。音声に伴ってテクストが自動スクロールすることはないので、手動でテクストを動かす必要がある。朗読は全部で27時間あまり入っており、朗読者はこの分野で有名な Jim Norton と Marcella Riordan の二人のアイルランド人。マーセラが女性の声の部分を朗読する。朗読音声の再生画面に表示されるテクストでも註釈モードに入ることができる。

 なお、本文で註釈が附いていない箇所の単語の辞書引きは通常の iOS アプリ同様にできる(使う辞書は通常の iOS 環境と同じく自分で指定できる〔Oxford Dictionary of English や『ウィズダム英和辞典』などの内蔵辞書から選ぶ〕)。

 本アプリはその他に、『ユリシーズ』で言及される音楽がサンプルとして15曲ほど入っている。Thomas Davis の 'A Nation Once Again' や Vincenzo Bellini の 'Tutto è sciolto' (抜粋)など。

 また、『ユリシーズ』読解の参考となる資料がいろいろ収められている。ジョイス学者として著名な Derek Attridge による序論(彼の2004年の著書 Joyce's Ulysses から)、ジョイスの年譜、ジョイス自身による『ユリシーズ』朗読の1924年の録音('Aeolus' エピソード)、『ユリシーズ』出版をめぐる事情、『ユリシーズ』全体のスキーマ(場面、時間、体の器官、学問や芸術の分野、色彩、シンボル、テクニック等を図解したもの)、『ユリシーズ』の下敷きとなったホメーロスオデュッセイア』の英訳(Ian Johnston 訳)、『ユリシーズ』ゆかりの地の写真など。

 

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