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ジョイス『ユリシーズ』を原文で読むための註解書


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米本義孝『読解「ユリシーズ」』

 

 ジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』の作品前半部、第3,4,5,10,11 挿話を抜粋で取上げ、原文で読むための註解をほどこした書である。(本書の続篇『読解「ユリシーズ」〈下〉』は作品後半の第13,15,17,18挿話を抜粋。)

 周知の通り、本作品はダブリンに住む中年男のある一日を描いた長篇小説である。その日(6月16日)を「ブルームズデー」(Bloomsday)と呼び、毎年さまざまの行事がおこなわれる。

 1904年6月16日の朝から深夜までの一日、場所はダブリン、主人公はレオポルド・ブルーム、38歳。この人物がギリシア古典文学、ホメーロスの『オデュッセイア』のオデュッセウスユリシーズ)に相当する。余計なことをひとつ書くと、この日は木曜日であった。ついでにもうひとつ。本当はこの日でなかった。ジョイスが未来の妻ノーラと初デートを予定していたのは6月14日だった。ところがノーラは現れなかった。ジョイスは手紙を書き新たなプランを提案した。その結果、デートは6月16日に実現する。こうして、二十世紀文学の金字塔の記念日は定まった。

 2014年6月1日に、iPad 用のアプリとして 'Joyce's Ulysses: A Guide' が出た。註釈や音声をふくむすばらしいソフトウェアである。それに加えて本書などがあれば、本作品を原文で読むのに大いに助けになるであろう。

 本作品原文の最もおもしろい味わいのひとつは換喩(metonymy)的な物言いである。本書のテクストでは、ブルームの意識の流れや内的独白の部分を括弧 [ ] でくくってある。そこで、本書ではこの種の現代文学に特徴的な手法に留意しつつ読むことができる。その意識の流れの部分にメトニミックな物言いがよく出てくる。たとえば、妻モリの寝台から連想されたブルームの意識の流れなどは典型的な例である。

 

読解「ユリシーズ」

読解「ユリシーズ」