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紅茶はポットでいれるものだという、当たり前のことを丁寧に説く


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堀江敏樹『紅茶の本―紅茶とじょうずにつきあう法』

 

 堀江敏樹の『紅茶の本』は現在までに三つの版がある。初版(1989年)、増補改訂版(1992年)、決定版(2006年)の三つである。ここで取上げるのは増補改訂版である。

 本書で度肝を抜くのは、冒頭に挙げられた、世界の四大紅茶消費国の国民一人当たりが一年間に飲む量の数字である。

 

アイルランド   1600杯
イギリス     1500杯
オーストラリア  1200杯
ニュージーランド 1200杯

 

 これに対し、日本の数字は次の通りである。

 

日本        20杯

 

 日本で紅茶が「非日常茶飯」である原因について、著者がまず指摘するのは家庭にポットがなかったことである。「紅茶が一般に普及する最初の段階で、紅茶はポットでいれるものだという、当たり前のことが伝わらなかった」と書く(17頁)。ゆえに、「まずい紅茶」が先入観となった。さらに、PRの仕方にも問題があった。日本への紅茶導入時のパッカー(紅茶販売業者)はCMで「カップにティーバッグをちょいちょいとつけて、ほらこんなに便利ですよ」とやった。

 このような話から始まって、いろんな局面での紅茶について薀蓄を傾けてゆく。大変おもしろいのだが、一つだけ抜けていることがある。それは、世界最大の消費国、アイルランドと紅茶の問題である。この点について書いた日本の本は、寡聞にして知らない。評者の実感では、アイルランドの年間消費量は2000杯前後だと思う。もっとも、近年はコーヒー党も確実に増えているのだが。

 本書には著者堀江敏樹(かの有名なティーハウス、ムジカ店主)以外の見解も含まれていることを附記しておこう。チャイ工房の山田泥庵はカルカッタチャイやカシミールチャイについて絵解きを添えながら語る。紅茶派の五名が語り合う座談会では、佐川直史(公害防止センター)が紅茶と水の関係について語り、小川浩二郎(紅茶屋カン月)が紅茶の薬効について語る。

 

紅茶の本―紅茶とじょうずにつきあう法

紅茶の本―紅茶とじょうずにつきあう法