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スコットランドとアイルランドの民謡72曲を解説とピアノ伴奏つきで収録


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『世界民謡全集〈第4〉イギリス篇』

 

 日本音楽書史上空前の大著『世界民謡全集』(全16巻)の第4巻(イギリス篇 II)。B5判(182×257mm)で各巻300頁ちかく、曲集としてはかなりの大冊。

 編者門馬直衛はすでに日本語の定訳があるよく知られた曲についても、すべてに新しい訳詞をつけている。これだけでも大変な作業だが、世界の民謡の中で特にアイルランド民謡の占める位置を正確に把握していることに驚かされる。スコットランドアイルランドの民謡だけを多く集めた曲集はそれまで日本にはほとんどなかったとのことであるから、意義は大きい。

 世界でも音楽のすぐれたところとして知られるアイルランドの民謡の特色として、スコットランドの叙事性に対し、「洗練された抒情性」(3頁)を有すると看破する。慧眼である。この洗練は「素朴な民謡」のごとき通念の対極にある。世界の民謡の中で「イタリアも民謡の美しさでは有名であるが……〔アイルランド〕のように美しい民謡を持つところは他にはないかも知れない」(6頁)と書く。

 アイルランド民謡は26曲収めるが、そのうちアイルランド語の民謡が9曲ふくまれる。いづれも、よく知られる、洗練の極致のような曲である。その曲名を挙げれば、'An crúiscín lán' (乾せよ盃〔酒の歌〕)、'An Páistín Fionn' (美わしわが君)、'An chúilfhionn' (金髪乙女)、'Cailín deás crúidhte na mbó' (牛飼いの乙女)、'Cnocáinín aereach Chill-Mhuire' (なつかしのキル・ウィレ)、'Eamonn a' Chnuic' (落ち人)、'Suantraidhe' (子守歌)、'Róisín Dubh' (暗き薔薇)、'Una bhán' (ウナ・ヴァン)。

 言語の取扱いは正確であり、スコットランド高地の言語を「スコットランドゲール語」と書き、アイルランドの国名を正しく「エーレ」と記すのは、当たり前なのだが日本の現状を考えればあっぱれという他ない。ちなみに、いまだに広辞苑や精選版日本国語大辞典は「エール」の不正確な表記をつづけているはずである。

 日本では類書のほとんどない貴重な書であるが、残念なことに古書店でもめったに出ないであろうし、図書館でも所蔵するところは限られるであろう。民謡や音楽民族学の研究者なら一度は見る価値がある。

 

世界民謡全集〈第4〉イギリス篇 (1958年)

世界民謡全集〈第4〉イギリス篇 (1958年)

 

 

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