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イングランドとウェールズの民謡78曲を解説とピアノ伴奏つきで収録


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『世界民謡全集〈第3〉イギリス篇』

 

 『世界民謡全集』の第3巻(イギリス篇 I)。「イギリス民謡集」ははじめ1巻だけで完結するはずであったが、実際に編集してみたらとても1巻には収まらなくなったので2巻にしたとのことである。それほどイギリスには知られた民謡、知られるべき曲が多い。

 編者門馬直衛はすべてに新しい訳詞をつけている。「イギリス民謡には日本語の歌詞で日本に知られたものが少くないが、その歌詞はしばしば、原歌詞の意味とかなり違っているか、少くとも、かなり離れているからである」と書く(4頁)。

 イギリスの民謡の由来についての考証もふくまれ、「愛好者にはかなり役に立つと思う」と編者は自負する(4頁)。

 英語の曲だと 'Barbara Allen' (バーバラ・アレン)や 'Green-Sleeves' (グリーン・スリーヴズ)などよく知られた曲も収められているが、中には珍しいものもある。

 珍しい歌の例。ウィンチェスタ・コレッジ(本書で「ウィンチェスター大学」と訳すが日本だと中学高校に相当するパブリックスクールである)の学生歌 'Dulce Domum' (楽しきわが家よ)はラテン語で書かれている。古い学生歌にはラテン語のものがあるが、この歌は、伝説では学則違反のため休暇の帰郷を許されなかった学生が、はかなんで木の幹にラテン語の歌詞を書きつけたことになっている。曲は、これが民謡かと思うくらい、端正で折り目正しい望郷の歌である。

 ウェールズ民謡ではウェールズ語の民謡が10曲収められている。曲名を挙げると、'Ar hyd y nos' (夜ふけぬ)、'Bugail yr Hafod' (古里の歌)、'Codiad yr Haul' (日の出)、'Dafydd y Garreg Wen' (歌人の最後の歌)、'Morfa Rhuddlan' (リズランの沼)、'Llwyn Onn' (クルイン・オン〔愛の幸〕)、'Mentra, Gwen!' (帰れよウェン!)、'Rhyfelgyrch gwŷr Harlech' (ハーレクの勇士の歌)、'Tros y garreg' (石踏み越えて)、'Ymdawiad y brenin' (国王の詔)。

 ウェールズといえば、詩人音楽家たちが7世紀頃〔12世紀とも〕から毎年開いてきたハープと歌の競技会「エイステッドウォド〔アイステズヴォド〕」(Eisteddfod)が有名であるが、本書でもその記述が出てくる。

 山がちなウェールズの中でも最高峰スノードン(Snowdon)はよく知られるが、その山はスノードーニア(Snowdonia)と呼ばれるウェールズ北西部の山地にある。その Snowdonia のウェールズ語 'Eryrí' が歌詞の中に出てくる歌「リズランの沼」も本書には収められている。リズラン(Rhuddlan)というのはウェールズ北西部の町の名である。

 

世界民謡全集〈第3〉イギリス篇 (1958年)

世界民謡全集〈第3〉イギリス篇 (1958年)