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一気に読ませる迫力がある漫画


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サン=テグジュペリ『夜間飛行』

 

 サン=テグジュペリの『夜間飛行』 Vol de nuit を漫画化したもの。

 読み始めたらやめることができない。

 1930年頃の南米が舞台。航空郵便事業開拓期の人間模様を迫真のタッチで伝える。

 1931年にフランスで出版。その年のフェミナ賞(Prix Femina, その年で最優秀のフランス語散文または詩におくる文学賞)を受賞した。名前からして女性を重視していることが窺えるが、審査員は全員女性。賞は男女区別なく贈られる。1985年からは外国小説賞(Prix Femina Étranger)も贈られ、日本の辻仁成も受賞している。

 飛行士の冒険、特にファビアンが操縦するパタゴニア機のそれは印象に強く残る。同機が暴風と雷雨に遭遇し、雲の上に突き抜ける瞬間は、考えられないくらいの詩的光輝につつまれる。この部分を読めただけでもよかったと思わせるくらいだ。

 一方で、航空郵便事業を冷徹に推進する支配人リヴィエールの現状と未来とを見据える視線の鋭さも、読者の胸に刻みつけられる。本書はサン=テグジュペリがブエノス・アイレスで郵便飛行の支配人をしていた時期に書かれているので、むしろ作者の視点はこのリヴィエールの側にあるのかもしれない。

 漫画のタッチには好き嫌いがあるかもしれない。が、無性に原作を読みたいと思わせる点で、この作品にはそれなりの意義がある。

 

夜間飛行 (まんがで読破)

夜間飛行 (まんがで読破)