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Review of Jenna CD (Living Tradition May-June 2006 issue)


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 Living Tradition 誌2006年5-6月号の Chris MacKenzie による Jenna Cumming, Kintulavig のレビューは稀有なものだ。同誌でこれほどの美しい賛辞を読んだ記憶がない。レビューワーが心の底から感動していることが文章に滲み出ている。私も同アルバムには心から感動したから、彼が次のように書くわけはよく分かる。

Chris MacKenzie on Jenna Cumming's KintulavigWith a maturity that belies her years Jenna tackles the songs with delicacy, passion and anguish as required, and Gaelic song being what it is, there is a lot of anguish required (if it is not over a lost love it is over a land left behind). . . . Those that appreciate Gaelic song will love this CD to pieces . . . .

 その通りだ。これは正にゲールの歌に共通する特色だ。失恋でなければ、あとにした故郷。この両方に当てはまる感情として「苦悩」の語は使えない。それは、「胸の痛み」だ。「心の疼き」と云ってもよい。それも非常に強い。ときに死に至るほどの。

 言い古されたことだけれど、この種の感情を表すにゲール語に如くはない。今は二つに別れ、スコットランドゲール語アイルランドゲール語アイルランド語)とになっているが。かたや英語はどうやら、元々これほどの感情を引受ける度量も表現法もなくドライな言語であるのは、どうしたことか。それは措くとして、成就されなかった恋人への思い、もはや還れぬ懐かしき故郷、その痛切な思いを歌で聞くことでカタルシスを感じたい人は、ゲール諸語圏の歌、それもこのジェナ・カミングのような無伴奏の、あるいは、必要最小限の伴奏の、この上なく清らかな歌声を聴くのも一法である。