聖女マリナの伝説を翻案した芥川龍之介の小説
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熱心な芥川の読者であっても、さぞかし読みにくい小説ではないか。
けれども、キリシタン物に親しんでいる人や、ヤコブス・デ・ウォラギネ(イタリア・ジェノバの大司教)の『黄金伝説』を知る人には、すらすら読める作品に違いない。
芥川じしんが第2部にしるしているとおり、本作は『黄金伝説』を日本の長崎に移し変えた作品だ。
『黄金伝説』は聖人や殉教者の逸話を176篇あつめた13世紀の本で、その79番目の聖女マリナの伝説を下敷きに芥川は『奉教人の死』を書いたといわれる。
長崎の「さんた・るちや」教会に養われていた「ろおれんぞ」という日本の少年が密通の疑いをかけられ、破門追放され、乞食となる。ある夜、長崎の町の半ばを焼き払う大火がおこる。それが思いもかけぬ結末をもたらす。
芥川の筆は熱に浮かされたように一気に進んでゆく。宗教的説話が放つ普遍の光が日本という異教の地でもしっかりと実感をともなって物語を貫く。キリスト教徒でなくても心を打たれる物語が生まれた。
「奉教人」は今日は用いない言葉だが、室町末期から近世初期にかけて、キリスト教を奉ずる人をさした。