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ジャズの謎を探る旅が憂鬱のはじまりとは


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大江千里『9th Note/Senri Oe I 憂鬱のはじまり。: 1 (カドカワ・ミニッツブック)』

 

 シンガーソングライターの著者がニューヨークのジャズピアノ科に入学を決意し、旅立つ顛末がいろいろ書かれている。実におもしろい。

 読み出してまず、序文に「9番目の先にある音に誘われて」とあり、椅子からずり落ちそうになった。題名の「9th Note」に惹かれて読もうと思ったからだ。ジャズの和声理論からいうと、そんなものはまったく問題にもならない。その先は「11th note」に決まっている。テンションなら。だけど、「10th note」はピアノの左手には使うことがある。が、たぶん、本編とは関係ない。

 文章は大変読みやすい。肩の力が抜けた、リズムのよい文章だ。

 「自分の持ち物の99%以上を無我夢中で処分」したとあるので、並々ならぬ決意であることはわかる。あっぱれと言いたくなる。

 「漫然と生きるよりもゼロを選ぶ」とのサインを自らの心はずっと出していたと著者は書く。うーん。かっこいいね。めちゃ、かっこいい。

 彼はしかし、独りでは旅立たないんだな、これが。メスのダックスフント”ぴ”を連れてゆく。これまた、かっこいい。おそらく、犬がいない生活なんて考えられないくらいなんだ。自分の持ち物を処分するのとは、わけがちがう。犬は断じて持ち物なんかじゃない。

 ”ぴ”の写真が附いている。ぴんと頭をあげた犬だ。意外に大きそう。これをバッグに入れて飛行機に乗ったのか。やるなあ。

 選んだジャズスクールはブラッド・メルドーが通っていた大学ということで知っていたと著者は書く。なーんだ、そうか。それなら、ぼくだってそこを選ぶだろう。メルドーが行ってたなら間違いない。

 機内で著者はビル・エヴァンズを聴く。「音符は、今飲み込んだワインの行方を追いかけるように、ぐるぐると五臓六腑を駆け抜けて行く。」名文だ。いい酒だ。いい音楽だ。

 著者がアメリカを目指す一番の理由は、ジャズの「謎」を解き明かしたいと思うからだという。それほどの意気に燃えているのに、題に「憂鬱」の文字がある。いったい、それは‥‥。

 

 

 

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