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アイルランド競技会へ海外から参加する人 From beyond the Shores of the Emerald Isle


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 映画 'The Boys and Girl from County Clare' (2003) は抱腹絶倒のコメディながらアイルランドの伝統音楽競技会にからむ人間模様を映画の形で見事に拳拳服膺してみせた作品といえる。

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 ケーリー・バンドの全アイルランド大会に参加する三カ国のバンドのリーダーたちとバンド・メンバーとの知られざる過去が物語の中で意外な展開をする。一つはクレアから参加したケーリー・バンドで、他の二つはリヴァプール南アフリカからの参加。

 このリーダーたちは実は兄弟なのだ。が、これがとってつけたようなプロットではなく、アイルランドという国のたどった運命を考えると、ああこういうこともあったかも知れないなと思わせられる。

 リヴァプールといえば、折りしもビートルズ全盛時代という設定で、そのビートルズとケーリー伝統との対比がまた笑わせる。

 ヒロインを演ずるアンはコアーズのアンドレア・コアー。

 映画で流れる音楽そのものは、ハリー・ブラッドリーやパディ・グラッキン、ポール・マグラタンら錚々たる音楽家が担当し、非常にオーセンティックな響きを醸しだしている。

 映画の最後に流れる歌はショーサヴィーン・ニ・ヴェグリー。映画のクレジットは 'Jimmy mo Mhíle Stór' となっているがそれは誤りで、ブラスケット島由来の歌 'Raghadsa is mo Cheaití' (キャティーと倶に行かん)である。

 知る限りではショーサヴィーンはこの歌を録音していない。ということは、この映画のための録音だ。映画の秒単位の構成に合わせるためか、2行目を省略し、1, 3, 4 行目を歌っている。なお、raghad というのは動詞 téigh (行く)の未来時制一人称のマンスター地方特有の活用形。

 この映画を見ていて、コークで行われたエラハタス(2005年)のことを想いだした。オ・リアダ杯競技には15人が参加していたが、うち一人がアメリカ合衆国からの参加だったのである。

 エラハタスというのは、徹頭徹尾アイルランド人のためのアイルランド語によるアイルランド語芸術の催しである。外国からというその異例の参加者を紹介するに先立ち、司会者のマールティーン・トム・ヒョーニーンは観客席にいる二人の外国人を紹介した。一人はカナダ人、そしてもう一人は日本から来た私だった。

 そうやって観客を外国人に慣らしたあとに出てきて、おもむろに歌いだしたアメリカ人の歌は実に見事だった。彼女の名はモーリーン・イ・ヘージという。今はマサチューセッツ州に暮らすが、もとはコナマラの出身である。

 こうして、アイルランド音楽の競技会は、時にアイルランドの移民の歴史を人々に思い起こさせながら進行してゆく。と同時に、本映画でジミーを演ずるコラム・ミーニーが語るように、「兄弟は競い合いながらも、心の底では互いに深く惹きつけられている。」ちょうどそのように、競技者たちは競争心を燃やしながらも、時にはこの兄弟のようにお互いを認め合い、惹きつけられているに違いない。激しい戦いの中にもそういう面を感じる。

 音楽はその絆であり、彼らを未来へと運びゆく河である。ジョン・ジョーが映画中で語るように、人が動くとは音楽が動くということである。音楽は人であるから。