アイヌと奈良、シマフクロウ、偶然の哲学などをちりばめた幻想的ロマンス
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岡山嘉彦『神の鳥』(幻冬舎ルネッサンス、2013)
プロの作家による入念な推敲を経た、またプロの校正者による綿密な校正を経た小説とはまた違うかもしれないけれど、扱うテーマや舞台に関心のある人には興味深い本だろう。幻冬舎ルネッサンスは幻冬舎とは違う。
テーマは題名の「神の鳥」にかかわる。シマフクロウをアイヌ語でいうと「神の鳥」の意味の言葉になる。本書では「カムイチカフ」と表記される(誤植かもしれないが、一貫してこの形で出てくる)。一般には「カムイチカプ」という(鳥はふつう cikap)。
舞台は北海道と奈良。アイヌの伝承にかかわる土地と、古代の信仰にかかわる神社など。
主要登場人物は吉野山中で木刀のすぶりにはげむ青年、本郷隆芳とアイヌの血をひく少女、桜井波奈(はな)。波奈の名前が「那波」と誤記される箇所(113頁)は、読んでいて興ざめなことこのうえない。再版されることがあるとすれば、ここと、「森野の感嘆の声をあげた」(180頁)と、「アタッシュケース」(286頁)は、せめて訂正してほしい。
この二人が、シマフクロウがかかわる数奇な運命をへて、互いに惹かれあう物語だ。二人にからむ周辺の人物、特に「クモ博士」とあだ名される島野信夫、「シマフクロウ博士」と呼ばれる那場正彦らはなかなか興味深い人物として描かれる。
プロットの展開や会話の文体にやや不自然なところがあるけれど、シマフクロウと波奈との交感、交信のところや、シマフクロウの歌とされる”シロカニペ ランラン ピシカン”(銀の滴 降る 降る まわりに)をめぐる二人のからみなどは読みごたえがある。