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『魔人の地』13章の翻訳に驚く


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酒寄進一が絶好調だ。彼の訳すものならなんでも読みたくなる。 

ドイツ・ファンタジーの『魔人の地』(創元推理文庫、2015)は空飛ぶ絨毯に乗る若者と砂漠の魔人との対決という千夜一夜のような物語。生き物のような絨毯と魔人の描写がリアルで惹き込まれる。 

その13章「マリヤム」の途中でフォントが変わる(教科書体?)。主人公のターリクの恋人マリヤムを回想する場面だからだろうと想像はつくけれど、原文はどうなっているのか気になる(他にも例えば23章「怪人」で回想場面がある)。

調べてみるとイタリック体だった。ははあと思いながら読んでいくと章の終わりで驚いた。創元推理文庫版115頁。

 ターリクの目がヤシの木のあいだに浮かぶ影を捉えた。

「だれ?」マリヤムはささやいた。

 その声は落ち着いていた。それでもかすかに不安がまじっているのを、ターリクは聞き逃さなかった。

 場面の情景がくっきり浮かぶ。見事な文章だ。 

ところが原文では「だれ?」の行が最後に来ている。恐らく、次章が「だれ?」で始まるのと呼応して、章がつながるよう工夫をしたのだ。 

どちらをとるか。翻訳上、難しいところだ。詩の翻訳なら恐らくあり得ない順序変更ではあるが、小説だと許されるのかもしれない。ともかく、日本語の小説としてはこれで完璧な感じがする。 

ドイツ語原文は次のようになっている。

  “Sein Blick fiel auf eine Gestalt zwischen den Palmen.
  Maryams Stimme klang beherrscht. Aber unter der gefassten Oberfläche spürte er ihre Unruhe.
  »Wer ist das?«, flüsterte sie.”

(Kai Meyer. “Die Sturmkönige 1: Dschinnland.”)

 

魔人の地 (嵐の王1) (創元推理文庫)

魔人の地 (嵐の王1) (創元推理文庫)

 

 

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