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初春三句


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時のかなた昇天すもの日のはじめ  飯田蛇笏

風花を神の声かと仰ぎたる  遠藤若狭男

方舟に在るかの目覚め雪降れり  宮脇白夜


 いずれも『福音歳時記』(ふらんす社、1993)より。

 飯田蛇笏の句以外は雪の降ることにはっとした驚きが感じ取れる。降る雪をじっと(仰ぎ)見ていると、自分のいるところが空に向って上がってゆくような感じを覚えることがある。それを散文で書いた池澤夏樹の『スティル・ライフ』の〈雪が降るのではない。雪片に満たされた宇宙を、ぼくを乗せたこの世界の方が上へ上へと昇っているのだ。〉が思い出される。

 飯田蛇笏の句の「日のはじめ」とは元日のこと。例えば〈いぬの年やのびして永き日の元〉(広武)のような句ののどかさとは違い、蛇笏は時間のかなたを観ており、「昇天すもの」がそこにおわす。全能者として時を支配する。元日に始まる一年という時の次元のはるか上に自らを同期させ歩んでゆこうとする厳かな決意がしずかに感じ取れる。

 

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