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大蝦夷神社で八軒と御影が初デート――荒川弘の農業高校マンガ第7弾


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荒川弘銀の匙 Silver Spoon 7』小学館、2013)

 

承前) 農業高校一年の八軒勇吾は馬術のデビュー戦で4位という成績をおさめた。よく働く八軒は続いてエゾノー祭にとりかかったが、その当日の朝、過労がたたって倒れてしまう。

 ちょっと表紙を見てほしい。左はスリムになったり巨大になったり変化がはげしい謎の稲田多摩子(タマコ)。右は第6巻で華々しく登場した南九条あやめ。あやめは御影アキの幼なじみで、清水西高に馬術部を創設した。またまた、台風一過のようなことになりそうな予感がする。

 御影に助っ人要請を受けたあやめはドロイヤル号を連れて、エゾノー祭の馬術部の催しに飛入り参加する。相変わらず、タイムやルールは気にせず、ド派手なパフォーマンスを繰広げる。

 日本輓系種vs人間というレースが行われる。輓系種の馬そり対人間ばんば(人間が数人で曳くそり)のレースだ。その人間組のほうにあやめが入り、騎手はタマコがつとめる。馬そりのほうは御影が騎手をつとめ、たたかう。こういう馬対人のレース、ほんとにあるのだろうか。あとで、「これホントに重かったよね!」と人間ばんばに参加した高校生が言うと、馬そりを貸してくれた農夫は「馬のすごさがわかったべ?」と返すのだった。

 退院した八軒は御影に「障害も輓馬も楽しんだか?」と訊く。御影は「うん! なまら楽しかった!」と答える。北海道方言で「すごく」楽しかったの意らしい。もとは新潟方言という話もある。「生半可」の「なま」から来ているそうだ。「中途半端な」が「すごく」の意に変わる類例としては「なかなか」や「かなり」(どちらも元は「そこそこ」の意)がいい意味に変化する例などがある。

 馬そりの持ち主が教えてくれた大蝦夷神社が八軒と御影の初のデート・コースに決まる。「絵馬が馬の形しててめんこいぞ!」と言われて、御影はその形にときめいたのだ。しかし、二人がいざ出かけようとすると、同じクラスの常盤恵次マルコメ君のような雰囲気)が「なになになに 二人でどこ行くんだよ――っっ!!! 遊びに行くの――!? 俺も行きた――い!!」と言い、すかさず周りの連中にボコボコにされる。みんなは「八軒 早く行け!!」と叫ぶのだった。いやあ、持つべきは友。ところが、神社に着いてみると、受験や就職の願掛けで先輩諸氏がすでに来ていたのだ。世の中、なるようにしかならんと読者はあきれるところ。

 いざ絵馬に願を書く段になって、八軒は自分には願い事がないことを思い出し、あらためて、本当の夢って何だろうと思うのだった。八軒と獣医を目ざす相川との会話。八軒は自分の将来が見えない。

「相川と違うのは、その先がどん詰まりで何になればいいのか見つからないって事だな。」
「どん詰まりじゃなくて、『今から何にでもなれる』って思うと楽しくならない? 僕なんか、夢が固まりすぎて融通のきかない一本道だけどさ、八軒君の夢はここから際限無く広がってるんじゃないのかな。」

北海道の雄大な景色を見ながらのこんな会話は説得力がある。