模範解答のない問題--荒川弘の農業高校マンガ第4弾
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荒川弘『銀の匙 Silver Spoon 4』(小学館、2012)
八軒はかわいがっていたブタ「豚丼」の精肉を51kg全部買取る。それをベーコンにしたりして、みんなにも喜んでもらう。
自分なりに豚丼に対して筋を通したつもりなのだったが、「正直、自分のやった事が良いのか悪いのかもわかんないし」と悩む。「模範解答のない問題」だから。
ところが、ある日、受験参考書を取出してみて驚く。こんなに簡単だったのかと。八軒は考える。
ずっと答えの無い事で悩み続けてたから、「答えのある物」がより鮮明になったのか…!
こうして、八軒は農業高校で、思ってもみなかった「勉強」をする。思い描いていた進学校のコースからは外れたかもしれないが、得難いものを得たとの実感が徐々に湧いてきているのではないかと、読者は想像する。
八軒はしみじみ述懐する。
はは… 教科書ってすごいな! 勉強って面白いな!
八軒は勉強の純粋な面白さを思い出したのだった。
八軒は答えのない問題に向き合い悩むことで成長する。楽な道を選ばず、あえてまた次のブタに「ベーコン」と命名する。教官から「苦しい思いをくり返すというのか?」と言われ、こう答える。
先生 前に言いましたよね? 「ここでいい」と決めつけてそこに居座り続けるなよなって!
「生き物を食うってこんなもんだよね」って割り切って達観しちゃえば楽だけど、俺は、それは、やっぱ嫌です! 達観して…そこに満足して居座るのは…こいつら見ちゃったらもうできません。
八軒がこう言い切るのは、学歴がなければ世の中、誰も相手にしてくれないぞと決めつける父親への反発が脳裏にあった。
それでもなお悶々とする八軒の前にコロポックルのような校長先生がひょっこり現れる。八軒は中学で下のほうの成績だったことから農業高校に逃げてきたことに負い目を感じ、物事を否定的に見ている。これに対し、校長先生は逃げた先で出会った人やものは否定するものでしたかと問う。八軒は「いえ」と応える。そこで、校長先生はこう言う。
逃げ道の無い経済動物と君達は違うんですから。生きるための逃げは有りです。有り有りです。
これを聞いた八軒は驚きのあまり呆然と立ちつくす。八軒の中のどこかで重荷がおりた瞬間だった。