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宮崎 駿の『シュナの旅』の原作である民話


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賈芝・孫剣冰編、君島 久子訳『白いりゅう黒いりゅう』岩波書店 岩波おはなしの本、1964)

 

 宮崎 駿の『シュナの旅』の原作であるチベットの民話「犬になった王子」他全六編の中国民話が収められている。多くは少数民族の民話。挿絵は赤羽末吉。対象は小学1、2年以上。

 「犬になった王子」(チベット族)は賈芝〔チャーチ〕・孫剣冰〔スンチェンピン〕編、『中国民間故事選』第一(1958)・二集(1962)から採られている。他に同書から採られているのは、「天地のはじめ ――巨人グミヤーの話――」(プーラン族)、「ねこ先生と、とらのおでし」(漢族)、「白いりゅう黒いりゅう」(パイ族)。同書と同じ頃に地方別の民話集が出されており、その一つ『雲南各族民間故事選』(中国民間文芸研究会主編・中国作家協会昆明分会)から二編「くじゃくひめ」(タイ族)、「九人のきょうだい」(イ族)が採られている。

 本書には以上の計六編が収められている。「岩波おはなしの本」は全11冊からなり、本書は7冊目にあたる。全11冊の構成をみると、アジアの話を収めたのは他に『天からふってきたお金 ―― トルコのホジャのたのしいお話 ―― 』(アリス・ケルジー 文、岡村 和子 訳、和田 誠 絵)があるだけで、あとはすべて欧米の話。

 本書の訳者君島 久子のあとがきによると、チベットをはじめとする草原一帯には「弦楽器をかかえて、おはなしをしてあるく人たち」がおり、チベットは「北と南から、西と東から、さまざまな民話がつたえられて、まるで「民話のおくら」といってもいいほど」であるという。もっと読んでみたい。

 さらに、タイ族には「おはなしを語ってあるくことを、職業にしている、ザンハという人たち」もいるという。この「おはなし家は、せんすをかた手に、いい声で、うたうようなちょうしをつけて、おはなしをはじめます。そばから、笛のばんそうもはいります。そのまわりには、あつまってきた村の人びとが、こしをおろして、まるく輪になって、おはなしにききいります。こうしてはじまるおはなしは、ながいものになると、ふた晩も、三晩もつづきます。ですから、おはなしのなかみも、こみいってきます。」ということだ。

 まるで、アイルランドと同じではないか。実は、宮崎 駿の『シュナの旅』を最初に読んだとき、チベットの民話と知らず、40頁の絵を見た瞬間、これはアイルランドの風景だと思い込んだほどであった。

 ともあれ、『シュナの旅』のことを知ったのは、イラストレータであり、アイルランド伝統音楽演奏家である あっしーさんのブログ にてであった。ここに記して感謝します。それがきっかけで「犬になった王子」はもちろんのこと、さまざまなシナ少数民族の民話、特に、「くじゃくひめ」の物語が読めたことはうれしい。無性にアイルランドはケリー県の語り部バブさんの話がまた読みたくなる。