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二十世紀の黄昏を生きる少年少女たちの推理とは


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津原泰水ルピナス探偵団の当惑』創元推理文庫、2007)



 1994年から95年にかけ、講談社少女小説文庫に津原やすみ名義で書き下ろした二篇(第一話、第二話)を改稿し、新たに第三話を書き加えたもの(原書房刊)が、創元推理文庫に収録され、電子書籍化された。電子書籍版だと解説が附属しない。

 著者はしかし、少女小説と思っていなくて、少年少女探偵団が活躍する本格推理小説として書いていた。それが最もよく表れたのが第三話「大女優の右手」である。

 手套の麗人として知られた女優野原鹿子が、舞台上演中に絶命し、その後の舞台をダブルキャストとして控えていたもうひとりの女優がつとめる。その間に楽屋に安置されていた野原鹿子の遺体が、救急隊が到着したとき、失せていた。

 この謎の事件に挑むのが少年少女探偵団の面々。中でも、化石マニアの高校生祀島龍彦の雑学と推理力がずば抜けている。モンローについての会話から、多指という形態異常として豊臣秀吉の右手の指が多かった事例を挙げるなどの雑学が、その後の推理に活かされる。

 この話において、曇りない感性と洞察力を発揮する少年や少女と、大人たち、特に古い過去の歴史を秘めた老人たちとの出会いに、えもいわれぬ味わいがある。

 野原鹿子なる女優がいったい何者だったのかという謎。優雅なレエスの手ぶくろがなぜトレードマークだったのかの謎。苦いが深みのあるコーヒーを飲んだあとのような余韻がただよう。