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題名に込められたなぞ


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イーデン・フィルポッツ、武藤 崇恵訳『だれがコマドリを殺したのか?』創元推理文庫、2015)



 イーデン・フィルポッツ1924年にハリントン・ヘクスト名で発表したミステリ。

 本訳が準拠する題名は米国版のそれだ。殺人モチーフでよく使われる 'Who Killed Cock Robin?'という詩の1行目をそのまま採っている。

 この詩が本書の殺人事件の解決で重要な役割を果たすのだけれど、どういう役割なのかが本文にはっきり述べられていない。これは、おそらく、読者がよく知っている詩だからだろう。

 しかし、その場合の読者とはもちろん英米の読者のことだ。日本の読者むけには説明が必要だ。巻末の、「フィルポッツ再評価」と題された戸川安宣の解説に「歌詞に沿って事件が進行する、という所謂(いわゆる)童謡殺人ものではない」とあるけれど、それでは探偵ニコルが〈だれがコマドリを殺したのか?〉に「事件を解く鍵」があると言ったわけが分からない。

 解くために必要なのは何か。原詩第11連だと考える。


Who'll bear the pall?
We, said the Wren,
Both the cock and the hen,
We'll bear the pall.


コマドリの葬儀にあたり、さまざまな鳥が役割を分担するのだが、ここでは棺衣を持つのがミソサザイ(wren)のおんどりとめんどりだ。

 そもそも、本書が「コマドリ」という愛称の女性の殺人事件をめぐるミステリなのだが、その女性の姉のあだ名が「ミソサザイ」だ。せめて、それくらいは解説でふれてほしい。

 この題名の意味合いについては、原書刊行当時の書評('The Outlook' 誌1924年5月21日号)で、殺される女性ダイアナに対しオスのコマドリを適用するという、語呂ねらいだけの題名には困惑をおぼえるなどと、見当違いのことが書かれているから、そのころから原詩への理解はあまりなかったのだけれど。

 読みおわってからこの詩を思いだすと、面白さが倍増する。全体として、さすがは『赤毛のレドメイン家』のフィルポッツと、うならされる。


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