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宮沢賢治の文章に木内達朗の油彩画を添えた絵本


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宮沢 賢治、木内 達朗 画『氷河ねずみの毛皮』(冨山房、1993)




 冨山房1993年刊。のちに、2008年に偕成社から出ている版は、表紙の絵が少し大きく、暖炉の上の柱時計がまるごと見える。5ページの絵と同じだ。なお、ページ番号が印刷されていないので、手で数えることになる。

 元は、1923年に「岩手毎日新聞」に掲載された。

 比較的知られざるこの物語は、いま、少し浮上しつつあるかもしれない。冨山房宮沢賢治の絵本シリーズで出たときは、木内達朗が、油彩に適した、知名度の低い作品として選んだ。が、その「光彩と陰翳に富んだ重厚な油彩画」は、ある作家の眼を捉えることになる。

 その結果、梨木香歩・文、木内達朗・画の絵本『蟹塚縁起』が生まれた。2003年のことである。

 そして、今年、2015年。岩波現代文庫版の梨木香歩著『僕は、そして僕たちはどう生きるか』の表紙を、木内の油彩画が飾ることになる。本書11ページの絵である。「かたい帆布の上着を着てゆかいそうにじぶんにだけ聞こえるようなかすかな口笛をふいている」船乗りの青年を描いた絵だ。

 青年は、イーハトヴ発ベーリング行きの最大急行の車内では目立たない乗客である。「窓のしだの葉の形をした氷を」自分のナイフでガリガリけずりおとし、外を見ている静かな存在である。だが、この青年が、物語のクライマックスであっと思わせるような活躍をする。

 その静と動との対比、動物の毛皮とクマと人の生存。それらが賢治にしか書き得ぬ文章で彫り深く綴られ、木内の油彩画がドラマの陰翳を深める。傑作絵本である。


     

      船乗りの 青年(本書11ページ)