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Google が evil になった日を描いた 'Scroogled'


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カナダ生れの作家 Cory Doctorow のショートショート 'Scroogled' について(短篇集 With a Little Help 所収)。



 この作品は「Google が evil になった日」についての SF を、との依頼を受けて書かれた。これだけではピンと来ないひとのためにお節介をすると、Google の創設時の社是は 'Don’t be evil' というものだった。だから、「Google が evil になった日」という設定は当時(2007年)は驚きをもって受けとめられた。ただちに、大反響をよび、19ヶ国語に訳されている。日本語訳も二種類あり、倉田貴史氏は 「 Scroogled 」 ― グーグルが悪に変わるとき の題で発表している。もう一つの訳は、畏友おおしまゆたか氏による グーグル詰め である。(この書評は原文に基づいている。)

 もっとも、当時であっても、内心では人々はその懸念は抱いていたに違いない。生活のあらゆる面がグーグルの検索対象になり、自分の人生が丸裸にされているのではないかという恐怖は、ゆえなきことではない。

 作品は主人公がサンフランシスコ国際空港に着陸し入管検査を受けるところから始まる。それがえらく時間がかかる。おかしい。身に覚えのないテロリスト容疑がかけられていると段々気づくが、それがグーグルのデータベース、それも画面の横に表示される広告のデータに基づいていることが分かってくる。

 作品発表当時は苦い笑いで受けとめられたかもしれないことが、今では殆ど現実といってもいい世界になっていることは、スノーデン事件を例にあげるまでもない。国家のセキュリティのためであれば、グーグルのような企業とDHS(アメリカ合衆国国土安全保障省)とが結びつくシナリオは空想でもなんでもない。

 恐ろしい世の中である。この作品はいま読返しても読みごたえがある。傑作。