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小笠原豊樹の新訳によるマヤコフスキーの代表作


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マヤコフスキー小笠原豊樹訳『ズボンをはいた雲』(土曜社 マヤコフスキー叢書、2014)



 土曜社からマヤコフスキー叢書全15巻が刊行中。その第一巻が本書である。

 千行を超えるこの長詩の表題そのものが、すでに強烈な詩句である。これを執筆中のある日、詩人はこの句をうっかり、ある婦人にしゃべってしまう。ズボンをはいた雲という言い回しは、本が出るまでは秘密にしておかなきゃならない。そう考えた詩人は、なんとかして婦人の心から「ズボンをはいた雲」ということばを追い出したい。それで小一時間もべらべらと全然べつの話を始めたのだという。それは成功した。青年の必至の饒舌に婦人は記憶を掻き回された。かくして、二十世紀最高の詩のタイトルが損なわれることが回避された。

 この詩について、訳者はかつて、こう書いた。
恋人マリヤに裏切られた主人公の激情が、急を告げる電話のベル、炎上する売春宿など、緊密なイメージの連鎖へと発展し、既存の愛、芸術、社会機構、宗教のすべてを打倒せよと叫ぶ最強音の呪いの声へと高まっていく。(『新潮 世界文学小辞典』)
これくらいの解題はぜひ本書にほしかった。ロシアの未来派が本叢書をきっかけに見直されることを祈念する。