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iPS細胞の医学応用を実現させるために


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山中 伸弥、緑 慎也『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(2012)



 名著である。

 中学や高校の必読書とする価値がある。将来の日本をになう世代に、ぜひとも読ませたい。

 大人にとっても、医療や生命の根本問題を考えるうえでの、基本的リテラシーの一部になればよいと思う。

 本書に書かれていることは、人類の未来をも左右しかねない根幹技術にかかわる。それだけに、その利権を奪い独占しようとする勢力からの攻撃にさらされている。人間や国の安全保障にもかかわる。

 本書は、山中伸弥というひとりの研究者が、いかにして、そのように重要な技術を確立したかを、研究人生の回顧やこれからの展望をふくめて、大阪弁もまじえながら、わかりやすく語ったものである。専門用語にはていねいな説明がつき、図解も効果的に使われており、読みやすい。

 最先端分野なので、本書が刊行された2012年10月以降にも、どんどん動きがあるようだ。

 本書の第2部にインタビューがあり、「いま、いちばん知りたいことはなんですか?」の問いに答えて、iPS 細胞と ES 細胞とを明確に区別できないということを語る。両者は由来が全くちがうにもかかわらずである。「ES 細胞の万能性は、進化の長大な物語の最終章で語られる現象です。それにもかかわらず非常に安定というのが謎」だとし、その謎を解きたいという。この謎は iPS 細胞がなぜできるのかという疑問にもつながるという。

 本書の最後で、医師である誇りが語られる。「医師になったからには、最期は人の役に立って死にたいと思っています。〔亡くなった〕父にもう一度会う前に、是非、iPS 細胞の医学応用を実現させたいのです」という言葉は感動的である。