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アメリカ文学を読む際の必携辞書


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Philip Babcock Gove, ed., Webster's Third New International Dictionary (Merriam Webster, 1961)



 出版から半世紀以上たつけれど、ウェブスター第三版は、いまだに愛読するに足る辞書だ。晩年の村岡花子の愛読書としても知られる。

 およそ、米語に関しては、この辞書を見なければ始まらない。1755年以降の米語、およびその用法を記録することを目的として編纂されている。アメリカ文学について、きちんと調べるにはこの辞書は必要不可欠である。

 徹底した用例主義であり、語義の裏付けとしての用例を重視する。その点では世界最大にして最高の英語辞書 OED と似た方針だ。OED といえば、古いことばや古い語源等に関しては、本書は OED をそのまま引用することも多い。

 なぜ愛読するに足るかというと、用例の引き方のセンスが独特だからだ。文学的ともいえるかもしれない。だから、つい、本書は読み耽ってしまうことになる。



 一例をあげる。'manifest' 「明白な」という形容詞を引いてみたとする。この単語は米国史で重要な局面で使われるからだ。すると、最初の用例にポーが出てくる。いかにも、まっとうな例に一見すると見える。だけど、その引用元がホラ話であることを知っている読者は、これを見てニヤリとしてしまう。ちなみに、その作品はジュール・ヴェルヌに影響を与えたともいわれている「ハンス・プファールの無類の冒険」である。気球に乗って月へ向かう途中、ふと見下ろすと「地球が凸面であることは著しく明白となっとったんや」(大阪弁訳)ときたもんだ。