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文学を愛する少女の物語


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村岡恵理『アンのゆりかご―村岡花子の生涯』(新潮文庫、2011)



 村岡花子の評伝。読んだことで得られる報いが大きく、読んでいる間も愉しく、明治から昭和への歴史を女性たちの群像とともに知ることができたのは歓びである。昔の話であるという感覚は不思議にない。今につながる点や線や面が多くあったのは意外であった。

 ぼく自身には、この秀抜な評伝の中身以外にふたつ、大きな収穫があった。

 ひとつは、村岡花子の書斎の写真である。見た瞬間におおおっと思った。ある大きな辞書が写っていたからである。あの辞書に違いないとおもったけれど、その写真の解像度では確認はできなかった。が、本文の最後の方で(夫から贈られた)ウェブスター第三版にやはり間違いがないことがわかって、たいへん嬉しかった。この辞書は村岡花子の愛読書であった。なるほど、そういうことだったのかと得心がいく。こと、北米の文学を精密に読もうと思ったら、この辞書は不可欠だからである。

 もうひとつは、巻末に梨木香歩の解説が附いていたことだ。その文章は<「曲がり角のさきにあるもの」を信じる>と題されており、これだけで、『赤毛のアン』のファンはじーんとくるだろう。いちばんよい時代はこれから来る、そのさきに光がある。村岡花子が苦しい時代に出会った、この、無根拠にもみえることば。これを、梨木は東日本大震災の四ヶ月後にしるすのである。まるで、それは、児童文学の使命や、自身の書く文学の使命を、自らに言い聞かせるようなことばである。
〔注記。梨木香歩の解説は新潮文庫のみのようです〕



村岡花子の書斎。まんなかに愛読した辞書が見える〕



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