意味なんて探さなくていい
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たとえば、「正しい音楽」という詩がある。すでに、その題名で、ひとは固定観念からときはなたれる。ことばの自由な海へとおよぎはじめる心地がする。
「正しい」も「音楽」も、だれでも知ってることばだ。だけど、このふたつのことばを組合わせてみようと考えたひとは、いままでいただろうか。
音楽とくれば、いろんな形容が考えられるけれども、そのどれも、正しいかそうでないかには無頓着だ。作曲科の先生はべつだろうけど。
みじかい詩なので、全文を引用する、といいたいところだけど、えんりょして最初の2連のみ。
正しい音楽
どこにもいないみたい 晴れた
どこにもいないみたい そっと
どこにもいないみたい うすい
白の布を身にまとって
窓からしのびよるひかりだけで
成長していく
砂でできた壁をなぞって
この耳に近づかないで
心地よいと泣きたくなるから
この耳に近づかないで
まるで、音楽が聞こえてきそうな詩行だ。ラップのようでもあるし、謎かけ詩のようでもある。正しい、はリズムにかかるのだとすると、正しいリズムなのである。
うつくしく、音楽的で、やさしく、あらあらしい詩集だ。詩行のあちこちから、かすかに、再びむかえるかもしれない洪水の予感がきこえる。まるで「プリ・アポカリプティク」詩のように。
「意味なんて探さなくていい」は「水面」という詩の第3連からの引用。