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ペイターの永遠の古典の名訳


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ウォルター・ペイター、別宮 貞徳訳『ルネサンス』(冨山房百科文庫、1977)



 別宮貞徳のこの翻訳書はふたつの意味で範とするに足る。

 ひとつは、翻訳書のあり得べき姿を備えていること。難解な本書への必要な導入が「解題」の形で本文の前に置かれている。さらに、有用な索引が巻末に附いている。

 いまひとつは、翻訳として文句のつけようがないこと。これほどの難解な原文をこれほどの達意の日本語にするのは容易なわざではない。

 この訳者に「誤訳」を鋭く指摘された人が、それでは見返してやろうと本訳を読んでみたところで、欠点らしい欠点を見つけることができるとは思えない。

 本書は美学の古典として重要な論点を数多くふくむが、レオナルド・ダ・ヴィンチの章は、レオナルドを論ずるときに、必ず引合いに出されるほど有名だ。例えば、レオナルドが「他人には聞こえない声にじっと耳を傾けているように、周囲の人には見えた」こと(112ページ)。「美と恐怖の両極端の入り混じったもの」がレオナルドの心に形成され、定着して、「一生を通じ消えることがなくなった」こと(113ページ)。これらは、出典がペイターであったことを忘れさせるくらい、「常識」化している。


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