日常と幻想とを自在に行き来する類稀な短篇集
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小池 昌代『ことば汁』(中公文庫、2012)
かねてから、いま一番うつくしい日本語を書くのは管啓次郎だと確信していた。一方で、ひょっとしたら、女性にもそれに迫る日本語の書き手がいるかもしれないと、頭の片隅で思っていた。
小池昌代はじゅうぶん、その候補になる資質がある。
この二人に共通するのは、基本が詩人であることだ。
だから、わずか一字で、世界を自在に変えられる。
そのわざを使って綴られると、本書のように日常の生活と幻想の世界とを、さまざまの扉を抜けて自由自在に行き来する作品が現出し、まるで魔法にかけられている心地になる。稀有なことだ。
収められた六篇のうち、「つの」と「すずめ」、および「野うさぎ」と「りぼん」は、それぞれ、ゆるやかにつながる。
そのほかに「女房」と「花火」。
いづれも、題の単語を見ただけで、そこから広がる世界が想起できる。実際、「詩作と同じように、ひとつの単語からイメージを広げて書いていくうちに妄想が枝葉を伸ばしていって……」と作者は語る。
評者は kobo 版の電子書籍で読んだ。紙冊体のほうにある文月悠光の解説がないのは残念。