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村山 斉『宇宙になぜ我々が存在するのか』(講談社 ブルーバックス、2013)



 これほどおもしろい物理の本を読んだのは久しぶりだ。近来まれに見る名著。

 著者の語りは自分のことばだ。読者の顔がたぶん見えていて、その読者に語りかけている感じがする。扱う話題に応じて、自分が分ったその筋道を、できるだけ生き生きと伝えようとしている。やわらかい。頭がやわらかい。文体がやわらかい(文章はライターの荒舩良孝による)。喩えがわかりやすい。図解がたのしい。ともかく、読んでて、退屈しない。これほどすらすら読める素粒子論の本があるとは。

 内容は、ともかくべらぼうにおもしろい。第7章「宇宙になぜ我々が存在するのか」を読んでいる途中で、付箋の数が百を超えた。おもしろい箇所だらけなのだ。しようと思えばいくらでも引用できる。

 本当に大きな発見は一世紀に二回くらいしか起きないという。その二回目が近年報じられたヒグズ粒子(Higgs boson)だ。本書はほぼ一貫してニュートリノまわりの話に終始するが、最後のほうにやっとこの粒子の話が出てくる。なんでだろうと思ったら、顔が見えない(=通常の素粒子に見られるスピンがない)ので著者はあまり好きでなかったそうなのだ。ちょうどハリ・ポタに出てくるディメンタのようなカオナシに見えて。

 ところが、実はその「顔」は異次元に向いているのではないかというのが著者の説だ。これは初めて聞く説だが、たいへん興味深い。しかも、ヒグズ粒子はその種の粒子の一番手として見つかったもので、今後、仲間が続々見つかるのではとも言う。ますますおもしろい。わくわくしてくる。

 本書の題にある「宇宙になぜ我々が存在するのか」(=物質と反物質がペアで誕生しペアで消滅したならいま我々は存在しないはずなのに存在するのはなぜか)の疑問を解くには宇宙のはじまり(クォークより小さい)に立返る必要がある。その頃の宇宙には変わったことがいっぱいあり、ほぼ定説になっている考え方から、まだ仮説に過ぎないものまでいろいろある。それらを考えたり検証したりするのに、素粒子物理学で扱うニュートリノやヒグズ粒子がいかに大事なものかということは、本書を読めばいやというほどよく分かる。宇宙論の啓蒙書としては第一級のものだ。


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