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どこからきて、どこへゆくのか


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よしもと ばなな『王国〈その4〉アナザー・ワールド』(新潮社、2010)



 よしもとばななの『王国』シリーズの第4巻は番外篇だ。主要登場人物だった楓や雫石のその後を娘の片岡ノニが語る。彼らの過去、現在、未来を語ることを通して、これから生きてゆくのに少しでも役立つツールたることを目指した小説だ。

 主筋は前の3巻で完結しているけれど、その後日談が1巻になった体裁だ。作者は前の巻から5年たって、この後日談を書いた。この世界から別れがたいという作者の哀惜の念が痛切にこちらにも伝わってくる。読者の側も去りがたい思いがわいてくる。いつまでも終わってほしくない物語は、しかし、ここに終わる。作者が愛情をこめたものがこれでもかというほど注入されている。

 前巻までは主に植物的な世界が描かれたのに対し、ここではそれに加えて、石の魔法を思わせる鉱物的な世界や猫探しの夢見も描かれる。さらに、木下ノニに出会うミコノス島の夕陽の「ものすごいオレンジ色」が「天からのおくりもの」としてつづられる。さらに取材で出かけたランサロテ島のセサール・マンリケという建築家のつくりだした空間についてこう語られる。

その空間の味わいは、果てしなく静かなものだった。人間がいてはいけないくらいに神聖な世界だった。〔中略〕ここは暑い季節のスペインなはずなのに、そこには霊界のおもむきがあった。


そのほか、伊是名島や天草への旅も描かれ、この本を読んでるだけで、世界のあちこちを旅している気分にひたることができる。というか、ワンダーラストを限りなくかきたてられる。

 植物の秘密のネットワークについて書かれた次のくだりは、アーシュラ・ルグィンの傑作SF 'Vaster than Empires and More Slow' に出てくる惑星全体をおおう植物ネットワークを想わせる。

一度ほんとうに親しくなると、たとえばそれがどくだみだとすれば、急に違う土地に行ってケガをして、その場所でどくだみを見つけると、どういうわけかもう話が通じていて、役だってくれる。


 アリシア・ベイ=ローレルによる表紙の絵とともに、このシリーズはいつまでも忘れがたい作品になった。


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