Tigh Mhíchíl

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ルグインのファンタジー論について


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Ursula K. Le Guin, 'Some Assumptions about Fantasy'
〔書影は本論を収めた Cheek by Jowl



 ルグインのファンタジー論や児童文学論を集めた本 Cheek by Jowl の冒頭に収められたシカゴでの2004年6月4日の講演 'Some Assumptions about Fantasy' (邦訳書『いまファンタジーにできること』では「ファンタジーについて前提とされているいくつかのこと」)について。

 既存のファンタジーに対する痛烈な批判を含む。2003年3月20日に開始されたイラク戦争への痛罵もおそらく含む。

 ファンタジーとは一般にどんなものと仮定されるか。第一に登場人物が白人であること。第二に中世が舞台であること。第三に善と悪との戦いであること。

 ルグインは三つとも誤謬であると論駁する。人種差別の克服を目指して来た米国で第一の仮定がまかり通っていることそのものが恥辱である。ファンタジーの舞台は第二の仮定のようにヨーロッパ中世ではなく、「もう一つの世界」である。第三の仮定における善悪はキャラクターでなくロールに基づいている。人が実際に何をするかに基づいていない。

 未熟な人間は善悪の単純な線引きを求める。それは暴力や戦争の口実として使われる。善をなすことが人を殺すことであるはずはないのに。

 ファンタジーは善悪の本当の違いを吟味するのに役立つ。真の英雄とは何かを考えるのに役立つ。その複雑なニュアンスを含んだ『指輪物語』は、これまでまったく誤読されてきた。