「言葉だけでは復興は不可能だとしても、復興は言葉の広がりの中で勢いを得るはず。」
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管啓次郎、野崎歓『ろうそくの炎がささやく言葉』(勁草書房、2011)
「言葉だけでは復興は不可能だとしても、復興は言葉の広がりの中で勢いを得るはず。」
そう信じて本書は編まれた。「あとがき」に<しずかな夜にろうそくの炎を囲んで、肉声で読まれる言葉をみんなで体験するための本を。>がこの企画の出発点だったとある。
詩人管啓次郎と翻訳家野崎歓とが友人たちに声をかけ、言葉の花束を編んで、東北という土地とその人々にささげる本をつくった。表紙をかざる新井卓の銀板写真、岡澤理奈の装幀につつまれたこの美しい本を、日本に関心のあるすべての人に手にとっていただきたい。
この本の朗読会に行ったことがある。いくつかを管啓次郎の肉声でまず聴いた。これほどの贅沢な体験は人生にそう何度とあるものではない。もちろん、あかりはろうそくだけだった。そのときの感覚とはまた少し違うが、本書に収められたいくつかの作品の朗読がやや長い(12分ある)プロモーション で見ることができる。
管啓次郎が自作のあとに記した文章の一部を引いておこう。詩人として詩とはなにかを震災のあとにあらためて考え直したような文章だ。
詩の主題はつねに地、水、火、風。自然力は人が書くどんな詩にも流れこむ。そこを流れる時間は悠久で、百年も千年もない。一方、人工物は、技術は、人が意図しないかぎりは詩に影すら落とさない。
本書に収められた作品は次のとおり。(あとで思いついたことを附記できるよう、数字を附す。)
- ろうそくがともされた[谷川俊太郎]
- 赦(ゆる)されるために[古川日出男]
- 片方の靴[新井高子]
- ヨウカイだもの[中村和恵]
- ワタナベさん[中村和恵]
- わたしを読んでください。[関口涼子]
- 白い闇のほうへ[岬多可子]
- 今回の震災に記憶の地層を揺さぶられて[細見和之]
- 祈りの夜[山崎佳代子]
- 帰りたい理由[鄭暎惠]
- ジャン・ポーラン よき夕べ[笠間直穂子訳]
- 哀しみの井戸[根本美作子]
- 文字たちの輪舞(ロンド)[石井洋二郎]
- マグニチュード[ミシェル・ドゥギー/西山雄二訳]
- エミリー・ディキンソン (ひとつの心が…)[柴田元幸訳]
- インフルエンザ[スチュアート・ダイベック/柴田元幸訳]
- この まちで[ぱくきょんみ]
- 箱のはなし[明川哲也]
- ローエングリンのビニール傘[田内志文]
- あらゆるものにまちがったラベルのついた王国[エイミー・ベンダー/管啓次郎訳]
- ピアノのそばで[林巧]
- めいのレッスン[小沼純一]
- 語りかける、優しいことば──ペローの「昔話」[工藤庸子]
- しろねこ[エリザベス・マッケンジー/管啓次郎訳]
- 月夜のくだもの[文月悠光]
- 樹のために──カリン・ボイエの詩によせて[冨原眞弓]
- 天文台クリニック[堀江敏幸]
- 地震育ち[野崎歓]
- 日本の四季[ジャン=フィリップ・トゥーサン/野崎歓訳]
- フルートの話[旦敬介]
- 川が川に戻る最初の日[管啓次郎]
18. 「箱のはなし」の「箱」といえば人工物を思い浮かべる。これについてあるBD作品を読んでいて思いついたことがある。そのことは項を改める。