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20世紀半ばのロンドンの教区生活を未婚女性の視点から描く


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バーバラ・ピム『よくできた女(ひと)』 (文学シリーズ lettres) (みすず書房、2010)



 英国の女流作家バーバラ・ピム(Barbara Pym, 1913-1980)の二作目の小説 Excellent Women複数形に注意)の邦訳。ピムの邦訳としては『秋の四重奏』に続く二作目になる。(その後、『なついた羚羊』が出ている。)

 表面だけ見れば、20世紀半ばの英国中流階級の生活を、特に教区教会との関係において、人々の心理のあやを掬いとりつつ、独特のユーモア感覚と風刺をこめて描き出した小説として上出来の作品ということになる。その頃の英国人、特に未婚の30代の女性が日々なにを考え、どう感じて生きていたのかが、細やかにたどられる心地がする。

 大した事件も起きず、男女関係においても決定的な発展はない。ただ淡々と日常のまわりのこまごまとしたことが語られるだけの、プロット的には精彩のないものに見える。

 だが、ピムの面白さは、女性が男性に対してどう感じていたかが、やや苦みをこめて、あたたかく、こころやさしく、綴られるその文体にこそある。それに対し外野からあれやこれや批判することは簡単だが、そのような内面をきわめて上質の文体で写し取ったという、ただそのことだけで本作は称賛に値する。味わい深い見事な作品である。