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「聖ブレンダン伝」などアイルランドの聖書外典的物語の特徴をよく表す9篇


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松岡利次編訳『ケルトの聖書物語』(岩波書店、1999年)



 10世紀から12世紀にかけてのアイルランド語、すなわち古アイルランド語(500-900)および中アイルランド語(900-1200)で書かれた、アイルランドの修道院文学のうち、初期アイルランド文学の文体を色濃く残し、アイルランドの聖書外典的物語の特徴をよく表すものを9篇えらびだして訳出し、資料について詳細な註を附し、当時のアイルランド文学の状況について解説をくわえた労作。

 「ケルト」とは、ここでは初期アイルランド文学の文体および土着的素材の意であり、通常「ケルト」という語から思い浮かべるものとは異なる。

 中でも「聖ブレンダン伝」に興味をひかれる。それから、一部が紹介されている、11世紀の『マッコングリニの夢想』(Aislinge meic Congloinne [Vision of Mac Conglinne])は、古代・中世アイルランド文学伝統全体のパロディというが、物語歌の枕に使われる「戦闘服」と類似するのに驚かされる。『麗書(Leabhar Breac)』に収められている。クラーク(Austin Clarke)やファロン(Padraic Fallon)はこの素材を用いて戯曲を創作している。

 外典とは正典化されていない聖典のたぐいだが、アイルランドのそれは一般の外典偽典集などに入っていないので、中々読める本がない。本書は、編訳者がアイルランド語から忠実に翻訳していること、黙示文学が多いけれども悲観的な終末論だけでなく復活の目映い希望も啓示していること、の二つの特徴がある。