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滅法面白い英雄譚「小栗判官」


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荒木繁・山本吉左右編注『説経節―山椒太夫・小栗判官他』(東洋文庫243、1973)


 以下、「小栗判官」(『説経節』所収)について。

 滅法面白い。半ばを過ぎると巻措く能わざるほど。調子のよい英雄譚にしばしばホメーロスを思い出す。

 日本の中世末から近世の文学中、口承文芸に属する説経節という分野があり、そのなかでも有名な古説経。以下、引用直後の括弧内は本文の章立て(第一〜第十五)。


 いわゆる本地物である(本来、仏である身が人間であったときの苦労・試練の生を語る)。

荒人神の御本地を、くわしく説きたてひろめ申すに、これも一とせは、人間にてや、わたらせたもう。(第一〔七五調〕)


 ヒーローの小栗は、父は兼家(二条の大納言)、母は常陸茨城県)の源氏の流れである。この父母は、世継ぎがないため、鞍馬の毘沙門に詣って申し子をした結果、小栗をさずかる。幼名は有若。18歳の元服で実名を常陸小栗殿とつける。母は御台にいろいろの人を迎えるが、小栗はどれも断る。

送りてはまた迎え、迎えてはまた送り、小栗十八歳の如月より、二十一の秋までに、以上御台の数は、七十二人とこそは聞こえたもう。(第二〔交叉配列法〕)


 ある日、鞍馬の申し子たる自分は、定まる妻を授かるよう鞍馬に祈願すべく出かける。その途上、横笛で「ひらでん」(D 音を主音とする団乱旋[とらでん]なる調子)を1時間ほど吹いたところ、この笛の音を面白いと思った深泥(みぞろ)が池の大蛇が美人の姫に身を変ずる。小栗は、これこそ鞍馬の利生(利益[りやく])として、玉の輿に乗せ自宅に迎える。

 ところが、小栗が大蛇と夜な夜な契りをしているとの風聞が立ち、父親により都から追放され、常陸の流人となる。ところがそこでも声価を高め、小栗の判官の大将となる。

 そこへ方々を薬売りして歩く後藤左衛門が来たので、小栗の若い侍がよい人がいれば仲人せよという。後藤は相模(神奈川県)の郡代(代官)の横山殿の姫君である照手の姫を紹介する。後藤のいう言の葉(手紙)作戦が功を奏し、小栗は横山殿に断らずして、照手の姫のもとに侵入し婿入りしてしまう。

 それを知った父親は小栗を討とうとするが、三男の三郎の作戦により、小栗を宴に招き、客人の芸として乗馬を所望し、その実、人を食らう鬼鹿毛(おにかげ)の馬に乗せようと謀る。しかし、力量に優れる小栗は馬を手なずけ、かえって見事な芸を見せる。

 三郎は次の策として毒の酒を盛ることを考え、それが成功し、小栗以下計11人は死ぬ。部下10人は火葬に付されたが、小栗は名大将のゆえに土葬となる。横山は、人の子だけ殺してわが子を殺さぬわけに行かぬと、鬼王、鬼次の兄弟に、照手の姫を相模川に、石を付けて沈めよと命ずる。

 ところが、兄弟は、いざ沈める段になって命だけは助けることにし、石を切って、牢輿(ろうごし)を流す。風に流され吹き着いた照手の姫は、その後、売られ売られて諸国を転々とし、美濃(岐阜県)の万屋の君の長(ちょう)殿に買われる。

 君の長は、美人ゆえ流れの姫(遊女)にしようとするが、常陸小萩と名付けられた照手の姫はこれを断る。そこで、遊女の下につかえる16人の水仕(みずし、下女)のさらに下の水仕を1人でやるように命ぜられる。

 一方、冥途黄泉にいる小栗ら11人の行き先について、閻魔大王は小栗を悪修羅道へ堕(おと)し、10人の殿原は娑婆へ戻そうとする。しかし、殿原らは大王に、小栗殿のほうをお戻しあれと願う。殊勝と思った大王は全員を戻らせようと考えるが、既に肉体のない10人は無理で、脇立ちとすることにし、小栗を、藤沢の御上人の明堂聖(めいどうひじり)の一の弟子に渡し、熊野本宮の湯の峯に入れるよう計らう。

 上人は、姿が餓鬼に似た小栗の髪を剃り、餓鬼阿弥陀仏と名付ける。上人は胸札に「この者を、一引き引いたは、千僧供養、二引き引いたは、万僧供養」と書き添え、土車に餓鬼阿弥を乗せ、引き出す。

 方々を引かれて行き、どんな因果か、美濃の君の長殿の門前に至った車は3日間うち捨てられていた。それをあわれに思った照手の姫は、長殿に車を引くために3日の暇乞いをするが、認められぬ。そこで、後の世に君の長夫婦に大事があれば身代わりになると約して頼むと、5日の暇を与えられる。

 姫はうれしく、車を大津まで引いて帰宅する。恩義に感じた餓鬼阿弥は、熊野本宮の湯に入り病本復(やもうほんぶく)したならば、下向時にお礼に参ると胸札に書き添える。

 ついに熊野本宮の湯の峯に入った小栗は目が開き、耳が聞こえ、口をきき、もとの小栗に戻る。熊野権現に天下の運を開く金剛杖をもらった小栗は都へ行き、父兼家の門をたたく。一度は追い払われるが、伯父が一門の顔の特徴を小栗に認め、呼び返させる。

 喜びの再会を果たした親子は、御門に面会する。御門は小栗のような大剛の者に畿内の所知(所領)を与えようとする。小栗はむしろ小国の美濃の国を所望し、かなえられる。

 君の長のもとへ行った小栗は常陸小萩を酌にと呼ぶ。互いに先祖を語り合い、再会を知る。照手に過酷な仕事をあてがったゆえに君の長夫婦に死刑を命じようとするが、姫は先の約により、長殿に所知を与えるように願い、聞き届けられる。

 次に、常陸へ横山攻めに向かうが、照手が、父に弓を引くなら先に我を殺せと嘆願する。それに免じて、小栗は三郎を荒簀(あらす)に巻き、西の海に漬ける。小栗は83歳で大往生をとげる。

 以上の語り物の随所に決まり文句が現れ、実に調子がよい。「小栗、このよしご覧じて、[これこそ、鞍馬の利生とて、玉の輿に、とって乗せ、……]」(第三)や、「兼家、げにもと思しめし、[母の知行に、あい添えて、……]」(第三)、「あらいたわしやな、照手の姫は、[さて牢輿の中よりも、西に向かって、手を合わせ、……]」(第九)など、人名部分が変数となるだけの定型句は多い。

 この東洋文庫本は宮内庁蔵の御物絵巻『をくり』の写真を収めていて興味深いが、全巻で311図ある一部しか載っていず、白黒であるので、機会があれば見たいものである。

 この話はバラッド 'Tam Lin' との関連から読んだのだが、他にもバラッド 'Thomas the Rhymer' と日本の浦島伝説との関連についての研究がある。土井光知「うた人トマスと浦島の子の伝説」(土井光知、工藤好美著『無意識の世界』所収、研究社、1966)。

〔関連書〕
中村とうようアメリカン・ミュージック再発見


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