上橋菜穂子の原点――精霊の存在感が全篇をつらぬく
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感動の傑作。作者の児童文学作家としてのデビュー作。
地球人類に滅ぼされた先住民族ロシュナールの魂と合体する精霊を生み出す精霊の木をめぐる物語。
これを書いたとき、作者は沖縄でのフィールドワークの経験しかない大学院生だった(立教大学大学院、専攻は文化人類学)。神の依り森・御嶽(ウタキ)の横を歩きながら、<精霊>の概念を思いついたと初版あとがきにある。
執筆当時はSFとして書かれた。環境調整局がナイラ星にはりめぐらした監視網は現実の地球において絵空事とも言えない。
「その頃心の中にあった思いやアイディアを全部ぶちこんで書いた物語」だと作者は語っているが、そうして書上げた原稿を読んでもらえないかと偕成社に電話をかけたとき、心臓は破裂しそうだったという。
作者が<精霊>の概念を思いついたという御嶽(ウタキ)には、評者も行ったことがある。斎場御嶽(せーふぁうたき)にも、またあの首里城にも、拝所(ウガンジョ)があり、観光コースからは外れていて、祈りの聖地として今も知る人ぞ知る場所に厳然と存在する。結界があり、そこへは入ってはいけないことは地元の人は知っているが、しばしば知らない人が足を踏み入れたりする。
本書はSFながら、もの凄い存在感がある。ある意味でリアリティがあるといってもいい。このような書と出会えたことは幸せだ。