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軍人かつ文筆家であるカエサルのガリア戦争の遠征記録


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カエサル、バラエティアートワークス『ガリア戦記 (まんがで読破)』イーストプレス、2010)

 

 カエサル(紀元前100-44頃)がガリア遠征についてみずから著した著のまんが化。

 共和政ローマ末期から帝政にかけてのローマ史をカエサルという政治家・軍人の内側からながめる心地がする。随所に地図が入るのが理解を助ける。

 ガリア平定にあたりカエサルは敵の情報収集をおこなう。それに基づき適切な作戦を立て、戦にあたっては果敢に戦法を決定し実行する。引くべきときには引く。ガリアの各部族はそれぞれ戦い方に特色があり、一律な戦法ではうまく行かない。

〈こうした未開の民と文明化の進んでいるローマとの戦いでは些細な情報が形勢を決することも多かったがカエサルはそうした未知との戦いにおののくどころかつきつめて探求し正確な情報・的確な判断をもって抜群の現地適応力をみせた〉(108頁)

 ブリタンニアについて。

〈このカエサルブリタンニア遠征ではじめてその存在が歴史に出てくるブリタンニアだがカエサルはその風俗や民族性ついても詳細に記している〉〈ガリアやゲルマニアでもそうであったがとくにこれまでローマでは未知の存在であったブリタンニアの情報は大いに人びとの関心をさそった〉(107頁)

 ゲルマニアへはレヌス渡河のみで止めたのに、なぜカエサルははるかに困難なドーヴァー海峡越えを選んだのか。

カエサルにとっての最優先事項はガリアの平定である〉〈ゆえにゲルマニアへはレヌス渡河のみで止めたことはうなずける理由であろう〉〈一方ブリタンニアといえばガリアに進攻するどころか交流関係があるくらいである〉〈だがカエサルはこれに目をつけたのだ〉〈昼間でも暗い森に囲まれたゲルマニアと違いガリアとブリタンニアとの交流の実績は文明の交流に転換できる そこにブリタンニアのローマ化の可能性を見出したのではないかと見られている〉(110頁)

 ガリア平定へ向けての最後の決戦というべきアレシア攻防戦で勝利するまでのウェルキンゲトリクスとの一連の戦いは見ごたえがある。ウェルキンゲトリクスはケルタエ人を率いる若き総帥であり、ケルトの歴史ではケルト人の英雄と称えられる(「フランス最初の英雄」とも称される)。カエサルの方も〈この年になってようやく張り合える相手と出会えた〉と感じる。

 ウェルキンゲトリクスが全ガリアの反乱という策に出た時、カエサルは逆に、〈四方に敵が散らばるガリアではむしろ一度に敵をたたけるようになって好都合だ〉と考える。この発想の転換と、5万のローマ軍で25万のガリー人を撃破する胆力とに、カエサルの類稀なる指導者の資質を見ることができる。

 カエサルの文筆の才も驚くべきもので、文学的にも高く評価されるだけのことはある。ラテン文学の散文を代表する作品のひとつ。