Tigh Mhíchíl

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Micheal O Seighin and Bogs


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〔蔵出し記事 20050906〕

 シャン・ノース歌手のミホール・オ・シェーン(Micheál Ó Seighin)さんら五人がメーヨー県内陸部の天然ガス関連施設の建設は危険すぎるから沖合に建設せよとの抗議運動を起こし、〔2005年〕6 月 30 日に投獄された。それから二ヶ月が経過したが、彼らはいまだに釈放されていない。その彼らの主張と今回の問題点とを浮彫りにする優れた記事 'Irish smallholders jailed for opposing gas pipeline' が2005年8月30日に出ている。

 この記事によれば、2003年まではアイルランド(経済・社会)計画庁 An Bord Pleanála (the Irish Planning Authority) は理性的な判断をしていたように見える。抗議している人たちによれば、同施設の天然ガス貯蔵施設を作るためには計画地の数千トン分に及ぶピート・ボグ(泥炭湿地)を除去せねばならないが、そのことが危険を招くという。この種の湿地は非常に美しいことでも知られ、今やピートのとれる場所は貴重でもある。計画庁は、ボグの除去により地すべり(slippage, landslip)が起きる危険性があると判断し、2003年にはこの計画を認可しなかった。

 ところが、アイルランド政府から横槍が入る。「重大な社会的生産基盤」 'critical infrastructure' のための法律を成立させると圧力をかけ、ボグを取除き別の場所に移したのだ。その移転工事の最中に、案の定、激しい地滑りが起きる。もしも天然ガスパイプラインがあれば断裂していたであろう。計画されているパイプラインは内陸部を9kmにわたって走るもので、家庭用のガス管の4バールに対し、150-300バールと50倍近い高圧である。ミホールさんらが近隣住民への危険を訴えるのは至極当然である。沖合に作ったほうが安全だが、高コストになるので、シェルは内陸に作りたい。

 計画庁が決定的におかしくなるのは2004年だ。10月に計画庁は計画を認可する。そこで、シェルはパイプライン・ルート上の35人の土地所有者に対し強制土地収用にとりかかる。うち、28人はすでに収容に同意していた。残りの部分が、必要な土地の半分以上を占めるが、7人は同意しない。こうした小自作農たちとシェルとの間にしばしば衝突が起きるようになり、警察が動員される。

 2005年のはじめに、シェルは妨害運動を排除する強制命令を勝ち得る。しかし、抗議運動はやまぬ。結末は五人の投獄となって今に至る。

 このことはアイルランド中に大きな波紋を呼んでいる。アイルランド語のメディアだけでなく、英語のメディアでもしばしば取上げられている。過疎地への経済効果およびエネルギー政策上の国益を考えるべきだとする賛成派とミホールさんのような地元住民への危険性を訴える反対派とに、国論は二分されている感がある。まだ、ダブリン政府は完全な許可はシェルに与えておらず、フライング気味にシェルが作ってしまったパイプラインは撤去を命じられている。ここから先は政治の問題だ。

 シェルはまだ裁判所から得た強制命令を取下げず、「五人の勇者」はなおも獄中で頑張り続けている。両者の対峙は続いている。

 どう考えればよいか。私に分かるのは、ボグはアイルランドという地を支える本当に美しい風景であり、これを取去って代わりに天然ガス施設を置くことは醜いだけでなく、近隣の人々の心の平安を奪うことになるだろうということである。いずれは、今回の天然ガス採取地のコリブ(Corrib)も枯渇するであろう。その時、施設の錆びついた残骸のみが残り、ボグは帰ってこない。恐らく心も錆びついたままではないだろうか。

 実は、メーヨーは手つかずのきわめて美しい自然が残るところとして知られ、アイルランド語の文化も非常に豊かである。2006年のエラハタスはそこで開かれた。今回のような問題は、そんなアイルランドを愛する人に恐らく深刻な影を落とすだろう。

〔その後、十年経つが、いまだに反対運動は続いている。英Guardian紙に記事があるほか、Wikipedia にも 'Corrib gas project' の項がある。〕

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[Anti-pipeline protesters Willie and Mary Corduff at the quay at Rossport; source]