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ふたごの姉妹の婚活!


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森薫乙嫁語り 4巻』エンターブレイン、2012)

 

 中央アジアの言語を研究しているイギリス人スミスはカラザをあとにしアンカラへ向かう。その道中、アラル海(現在のウズベキスタン)で双子の姉妹ライラとレイリに出会う。旅の疲れから海中におちてしまったところを漁をしていた姉妹に助けられたのだ。

 スミスは案内人アリのすすめで、道中を安全に通過できる職業、医者であることにしているが、それを聞いたライラとレイラはうちに来て調子の悪いおじいちゃんをみてほしいという。案内人は寄り道してたらキリがないというが、スミスは助けてもらった恩があると行くことにする。本当はスミスは常備薬を携えている程度で医学の心得はない。

 祖父はヤブじゃねえだろうな、と疑うが、なぜかスミスは治してしまう。肩が脱臼ぎみだと見てとり、同じ症状を自分の祖父で経験していたこともあり、運よく治せたのだ。とたんに名医と評判になり人々が押しかけてくる。

 という具合に、アラル海近郊の漁村の暮らしが描かれる。

 中心となるのは婿取り作戦を敢行する元気な双子の姉妹ライラとレイリだ。その姉妹の結婚相手がやっと決まっても母親による短期集中花嫁修業が待っていた。

 料理では水を粗末にするなーと叱る。<水の一滴は血の一滴。水を捨てる人間は命を捨てると思いなさい>と喝を入れる。

 掃除では<部屋の乱れは心の乱れ。家の中を美しく保つのも大事なつとめです>と耳の痛い母の言葉。それに対し姉妹は<おかーさん、掃除なんて毎日やってるじゃない。今さら教わる事なんてないわよ>と反発する。しかし母は<見えるところはもとより見えないところも徹底的におやりなさい>とさとす。

 極めつきは育児。遠くに水汲みに行かせたり、腕立て伏せなど、体を鍛える母に姉妹は<なんでこれが育児なの!?>とぶーぶー。ところが母は<育児とは!! 一に体力、二に体力、三四がなくて五に体力。いざという時、2・3人抱えて走れないようでは子供たちの命は守れないと思え!!>と教える。さらに、薬としての香辛料のことを叩き込む。これがすごい。<シナモンとショウズクを乳で煮て胃薬に、風邪をひいたらクミンと丁字。ショウガはセキ止め、ニクズクは下り止め、丁字は歯痛にも、サフランは血の巡りと婦人病に>と。

 男性読者はおそらく圧倒されるだろうが、このお母さんはいい。

 花嫁衣裳を縫っていて、おばさんに手伝ってもらった姉妹は、楽した分、後でわからないことができたらいつでも母親に聞きに来るつもりでいる。が、母の<そんな中途半端な事だめよ。嫁ぐまでに全部済ませておかないと。親はいつまでもいるわけじゃないのよ>のことばに姉妹は母親をじっと見る。このまんがは大事なところで台詞がないのがいい。絵が雄弁だ。

 あとがきで日本のお茶碗に関する新しい情報がある。お茶碗は唐物文化のひとつとして平安時代初期あたりに大陸からお茶と一緒に輸入された。これにご飯を盛るようになったのは幕末~明治期以降の事だとか。