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イギリス人スミス、旅立つ


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森薫乙嫁語り 3巻』エンターブレイン、2011)

 

 中央アジアの嫁まんが第3弾はエイホン家に居候していたイギリス人研究者、ヘンリー・スミスアンカラ目ざして旅立ち、案内人と待ち合わせるカラザに到着するところから幕を開ける。ところが、その待ち合わせ人を探すうちに、乗ってきた馬ごと荷物が消えていた。盗まれたのか。

 途方にくれながら探していると、同じように馬がいなくなった娘に出会い、二人で一緒に探す。市場の場長に相談するよう勧められるが、場長はものすごくおっかない顔をしており、願いなど聞いてもらえそうにない。ところが、やがて二人の馬と荷物が帰ってくる。場長は<うちの市場で盗みは許さん>とこわい顔で語る。顔はこわいがいい人だったのだ。

 その日はその娘タラスの家に泊まることになる。家には娘の義母ひとりしかいなかった。娘が馬を大切にするわけを聞くと、タラスは五人の息子全員と結婚したが、全員死んだのだという。馬はその息子たちの形見だった。ところで、タラスはさすがに森薫が描く女性だ。瞳に憂愁の色を宿す美人。

 中央アジアの言語文化を調査しているスミスはそのいきさつに興味をおぼえ、詳しく話を聞かせてもらう。タラスはまず長男と結婚したが、何年もしないうちに病死した。子がないまま夫と死に別れた妻は夫の兄弟と再婚するのが慣わしゆえ、次男と結婚する。ところがその次男も山道で転落死し、という具合に三男、四男、五男が死ぬ。息子全員を亡くした父親も死んでしまう。まるで旧約聖書の世界が今も生きているかのような話だ。

 義母はタラスに実家に戻って再婚するように勧めるが、タラスはとどまると言ってきかない。義母はそんなタラスが心配で、なんとか再婚相手を探そうとしている。秋葉のオタクのようなスミスに向かって<奥様はおあり?>と訊くのだが……。タラスはスミスの運命の女性、第2の乙嫁になるのか。

 ところで、そういうスミスをめぐるまじめな話とは別に、中央アジアの食べ物も相変わらず出てくる。第十六話「市場で買い食い」はその名の通り、市場の屋台で食べ物を買って食う話だ。これはたまりません。おいしそうなものが続々でてくる。焼きまんじゅう、魚の包み揚げ、五目肉うどん(落花生入り!)、腸詰め、串焼き、ザクロ、焼き飯等々。

 あとがきにお茶碗について面白いことが書いてある。元々は文字通りお茶を飲む為の器だったが、器が日本に入ってきた頃とお茶の習慣が伝わった時期とにズレがあったためか、日本ではなぜかご飯をよそう物として定着したらしい。そういえば、紅茶専門店でティーカップでなくお茶碗を使う店もある。