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中央アジアの嫁まんが第2弾。遊牧民と定住民の運命が交差する


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森薫乙嫁語り 2巻』エンターブレイン、2010)

 

 遊牧民出身の二十歳の花嫁アミル・ハルガルの物語第2巻は竃(かまど)の日で幕を開ける。つまり、パンを焼く日だ。嫁いだ先が定住民だったからこその場面だ。

 これだけで、中央アジア方面のパンが好きな人なら、もうたまらくなるだろう。話はややそれるが、これを読んで、神戸は三宮にある、あるインド料理店の絶品のナンが評者は無性に食べたくなった。ちなみに、評者はどこへ旅しても、可能なかぎりインド料理を探す。たとえアイルランドでも。

 ところで、この竃の日に見かける女性パリアの焼くパンの表面の模様は素敵だとアミルは思うのだった。花柄などがなかなかきれいに使われている。パリアと話を交わすうち、生意気なパリアの縁談がなかなかまとまらないことをアミルは知る。あるとき、パリアはアミルに美しく焼いたパンを贈る。アミルはお返しに弓で空の鳥を射落とし、焼いて食べるとおいしいですよと差し出す。

 以上が第六話「パン焼き竃」だ。何ということはない、日常的な話だけれど、この淡々とした味わいが何ともすばらしい。パンを焼くことが人生の基本であり、おいしく焼けたパンが食べられるのは至福だと思う人には、この話は共感できるだろう。

 ハルガル家の長兄アゼルらがふたたびアミルを連れ戻しに来る。第七話と第八話にかけて、ハルガル家とエイホン家との争いが描かれ、ここで十二歳の夫カルルクは男を問われる。妻を奪いに来た屈強な男に単身立ち向かうのだ。

 このまんがは中央アジアの暮らしが匂い立つようなところがあり、楽器を弾いている場面では音楽が聞こえてくるような気がする。第十話「布支度」の布の柄の美しさには息を呑む。布支度とは、嫁入り道具で布を沢山持ってゆくのだが、全部に刺繍するので小さいうちから少しづつ準備する。だから、娘が多い家は大変だ。ひい婆様は刺繍が上手で、縫った鳥がそのまま空に飛んでいったという伝承も出てくる。江戸の絵師蓮十や、新約聖書外典のイエズスを想起させる。

 夜の場面がまたよく、星空は美しい。

 布の伝承文化について、エイホン家に居候しているイギリス人研究者スミスはこう書く。

ふんだんに刺繍の施された布は時に貨幣以上の価値を持つ
作り手の社会的地位と帰属を表しその人となりを物語る
特別な1枚は特に念入りに仕上げられ
受け継がれるその家独自の文様には気が遠くなるほどの時間と手間と
そして想いと祈りが込められている
とはいえその姿には気負ったところは見られない
談笑しながら針を刺し仕事の合間に糸をつむぐ
そうするのが当たり前でごく日常の風景でありつまりは生活である

 あとがきによれば、子供ができてからが夫婦という習慣は日本でも昔和歌山県の有田地方あたりにあったらしい。タイトルの「乙嫁」は古語で「若いお嫁さん」「美しいお嫁さん」の意。

 著者はこの作品を描いていると〈私 今生きてる!!〉と思うらしい。読んでいるとありったけが注がれている感じがして、すがすがしい。

 

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