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ドクターマーティンズのエアソールシューズが探偵御用達?


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松岡圭祐『探偵の探偵3』講談社、2015)

 

 松岡圭祐の最新のシリーズ「探偵の探偵」第3作。巻頭に「本書には、前巻までの真相が含まれています」とある。そうなのだ。プロットのどこを書いても、2巻までの読者にとってネタバレになる。

 そこで、やむなく小道具類の話にする。出てくる小道具やセンサー類あるいはその回避の方法などは、スパイ小説さながらで、この方面のマニアでも楽しめそうなくらい「オタク」感満載である。

 なかでも評者が注目したのはドクターマーティンズのエアソールシューズだ。「スニーカーだが革靴に見える」と説明がある。「スーツに合わせても違和感がない」。ほんとか。ゴム底だから接近してきたときの足音が軽快過ぎないか。イエローステッチもけっこう目立ちそう。

 もちろん、探偵御用達を目指して作られた靴ではない。ドイツ人のある医師がくるぶしを痛めたときに、普通のブーツだと歩くのが苦痛だった。そこで、自分用に革とエアクッション底とを組み合わせた靴を作った。これが始まり。1945年のことだ。

 ところが、本書ではこれは探偵の目印に化している。「履いていれば探偵業者とみなせる」。おいおい。従来から健康目的で履いていた人はどうなる。

 それから驚いたのが砂糖の使い方だ。複数ある。中にはややアブナイ使用法があるので、書くことがためらわれる。次へゆく。

 当たり障りのない物が少ない。一つだけ。日本の車の運転席についている給油口レバーは賢い構造のようだ。いたずらされにくい。ところが、日産は「ベンツの真似」をしていて、給油口のロックとドアのロックが連動しているらしい。これ以上は書いていいのか分からないので、以下省略。

 プロット以外の小物の話でもヤバイ話が多すぎる。

 もう一つだけ。DVシェルターに関して、第2巻には出てきていない追跡方法が、実際に使われている例があるのだが、驚いたことにその方法(GPS を使う方法の一つ)がこの第3巻で使われている。現実のリサーチが行き届いていることを窺わせる。

 本書で主人公、探偵の探偵たる紗崎玲奈(ささきれな)は決定的な局面を迎える。その結末がどうなろうと(無責任な書き方で申し訳ないが)、シリーズは続いてゆく。

 紗崎玲奈が探偵の探偵を始めた動機そのものである仇敵との勝負が本作の最大の見どころである。その敵は強力で、なかなか正体をつかませない。

 この敵との対決はミステリの様相を呈する。ちょうどホームズとモリアーティの対決のようなもので、しかし違うのは本作では両者とも探偵だということだ。

 いわば同業者対決。ふつうは探偵対犯人というシンプルな構図になる。

 対探偵課の設置の動きが探偵業界に広がるなかで、探偵対探偵の構図がちっとも奇異に見えないくらいになってくる。常識を超えたサスペンス小説として、今後が楽しみだ。