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万城目学の忍者もの


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万城目学とっぴんぱらりの風太郎文藝春秋、2013)

 

 歴史小説で、豊臣から徳川への時代をあつかうが、背景を知らなくても、丁寧な書き方のせいで、読みやすい。

 見所は滅びゆくものたち(豊臣家および忍者という存在そのもの)の悲しみと、ひょうたんとの取り合わせ。なんとも不思議な仕方でかかわる。登場する忍者群像は個性的で、伊賀や京都や大坂を舞台として激闘するさまは惹きこまれる。

 万城目学の初の歴史小説だけど、この400年後をえがく現代小説『プリンセス・トヨトミ』とつながるところがあり、ファンにはたまらない。ひょうたんを見る目が変わるかも。

 腕の立つ忍者が数多くいる中で、最も冴えない平凡な風太郎が主人公というのがおもしろい。風太郎は戦闘の場面でも女性とのからみの場面でも、この上なくにぶい。だけど、そこが共感をよぶ。

 万城目学のファンには文句なくお薦めできる。「週刊文春」で2年間も連載された大長編で、たっぷり楽しめる。

 題は変わっているが、東北(特に秋田)の昔話で、普段いわない言いまわしを使ってリズミカルに終わりを宣言する「とっぴんぱらりのぷう」を引いている。聞き手はこれを聞くと、われに返り、話が終わったんだとわかる。風太郎という忍びの波乱に満ちた物語を聞かせてくれてありがとう、めでたしめでたし。