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読みやすい訳の対極にあるディキンスン訳詩


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エミリ・ディキンソン、谷岡清男訳『愛と孤独と (エミリ・ディキンソン詩集 (1))』(ニューカレントインターナショナル、1987)

 

 読みやすい訳が悪いわけではない。ただ、ときにきわめて難解なディキンスンのような詩をすらすらと読みやすく訳したものには警戒が必要だと、これは自戒の念をこめておもう。

 元が難渋の挙句うみだされた詩行なのに読みやすくなっている場合は「丸められて」いる可能性がある。棘が抜かれている可能性がある。日常の常識的論理を裂くようなことばは、そのまま裂くようにしておくのがよいのだ。

 米国の女流詩人エミリ・ディキンスン(1830-86)の訳詩集は数多い。が、そのなかで丸めて読みやすくすることなく、難しい言葉は難しいままに素直に訳してある、ある意味で勇気のある翻訳はそんなに多くない。それができる人は、逆説的だが言葉に対する全幅の信頼を置いている人であろう。信頼しているからこそ、そのままの言葉を読者にあずける。

 そんな「愚直な」翻訳のひとつが、この故 谷岡清男さんの訳である。彼の 'Who has not found the Heaven - below -' (ジョンスン番号1544)の訳を引く。

地上で天国を見付けなかった人は
天上でもだめでしょう
神の住居は私の家と隣合わせ
その家具調度は――愛