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文明衰亡の条件


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〔蔵出し記事 20040112〕

 中西輝政さんの『国民の文明史』によると、文明衰亡には六つの兆候がある(産経抄、産経新聞2004年1月12日)。

 これを読んで、アイルランドのゲールタハトのことと、日本のこととを考える。ゲールタハトには明らかにそれがなく、日本には明らかにそれがある――と、ぼくには感じられる。しかし、アイルランドのゲールタハトでは22世紀のアイルランド語の展望を訊かれるとみな口をつぐむ。

 産経抄の書くところによれば、文明衰亡の六つの兆候とは、「その一つは人びとが精神性や宗教性を冷笑したり、ないがしろにするようになる。二つは人びとが本来の居場所から切り離され、根なし草のようになる。とくに農業を嫌うようになる。三つはメトロポリス(大都市)に人間が群がり、刺激的生活から離れられなくなるようになる。四つは自らの文化に背を向けて、すでに滅んでしまった異文明の遺産のようなものをわけもわからずありがたがるようになる…などなど。」

 このような現象はアイルランドでも日本でも明らかに起きているように思うが、ゲールタハトだけはアイルランドにあっても違うように感じる。コナマラなどは、アイルランドにあって〈別の国〉であるとゴールウェーの若者はぼくに断言した。ぼくも、ごくわずかの期間ではあるがコナマラに行って土地の人々を訪れてみて、確かに〈別世界〉あるいは〈異次元〉であるとの感じをいだいた。しかし、確実にその衰亡を促進する要因が周りから忍び寄っているのも感じないわけにいかない。だから、22世紀にもアイルランド語は残っているかと訊くと、土地の人は難しい問題だと黙りこんでしまうのだ。ある人は、その問いには誰も答えられないと、諦めたように語った。なお、その人は、現代最高の女性アイルランド語詩人ヌーァラ・ニ・ゴーナルとアイルランド語詩の賞を分け合ったほどの男性アイルランド語詩人である(ミホール・オ・クィグ)。