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有川浩の第二作。土佐弁が響きわたるSF


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有川浩『空の中』(角川文庫、2008)

 

 有川浩の第二作。自衛隊シリーズとしても『塩の街』に続く第二作。航空自衛隊を扱う点では『空飛ぶ広報室』と同じ。高知県出身を活かした土佐弁の二重母音「エイ」が響きわたるSF。その他、土佐弁独特の現在進行形(「やりゆう」)や現在完了形(「やっちゅう」)を表す相(アスペクト)の表現も頻出。だいたいは分かるが、ときに意味が不明のこともある。

 高校生の男女と大人の男女(女性は航空自衛隊のパイロット)のダブルプロットが骨格で、そこは恋愛小説の要素も含む。四国沖の高度2万メートルで原因不明の航空機事故が2件、たてつづけに起こることから物語は始まる。その事故と、事故で死亡した斉木三佐の息子(高校生)が海で見つけた謎の生物とはどんな関係があるのか。「空の中」にいる知的生命体との関係は。

 この物語はある人物があまりにも理想的に描かれることによって、現実の地平を越え、寓話のひびきがするときがある。それは仁淀川愛媛県高知県を流れる一級河川)で漁業をいとなむ「宮じい」の存在である。この老人は、まずは高校生の男女の身内的な存在として重要な役割を演じ、物語の中ではもう一つのプロットにも関わってゆく。その朴訥な土佐弁は、過酷な現実、醜悪な人間性のうずまく物語に天恵のことばのようにしみとおる。その静かで深い箴言は、あたかも、この上なく美しい仁淀川の碧なす流れのように、読者の胸に落ちる。この老人の智慧は、未知の知的生命体の知性をも上回る重みを感じさせる。

 登場人物はいずれもよく描けている。著者が目指す「大人ライトノベル」としては申し分ない作品だ。ただ、えんえんと続く解離性同一性障害に関する記述には少し閉口した。あそこだけは「ハードSF」のような硬い記述を目指したのかもしれないが、作品全体にとって必要だったのかどうか。

 

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