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機龍警察シリーズ番外編の短編集 読みごたえ十分


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月村了衛『機龍警察 火宅』早川書房、2014)

 

 警視庁特捜部の機龍警察シリーズの読者なら楽しめること請け合い。すでにいろんな媒体で発表されてきたので、その水準についてはわかっていたが、こうやって改めてまとめて読むと、満足度が大きい。

 作品は登場人物の一人一人についてこれまで語られてこなかったサイドストーリーを語る、いわばスピンオフ的な作品と、本編の展開にも影響を与えそうな重要な要素を含む作品とに分かれる。どちらも読ませる。後者に属するのは最後の「化生」のみ。あとは前者に属する。前者の例、後者の例を一つづつ挙げる。

「火宅」

 由紀谷志郎警部補が元上司・高木政勝警視の見舞いに行く。高木はかつて由紀谷に捜査の基本を教えてくれた。

━━よく聞き 、よく見ろ 。捜査はそれに尽きるんだ 。どんなときでも耳と目をよく使え 。頭は放っておいても耳と目についてくる 。

 由紀谷が高木と話していると、高木のかつての部下である警察官二名が見舞いにやって来る。由紀谷が所属する特捜部は一般の警察官からは疎外されており、両者の間に気まずい空気が流れる。やがて話は高木が捜査に加わった未解決事件のことになる。

 見舞いからの帰途、由紀谷はあることに気づく。耳と目の観察にやっと頭が追いついたのだ。それはさっき話に出た未解決事件にからむことだった。由紀谷は高木宅に引返す。

 この短編は横山秀夫ばりの濃厚な警察小説で、警察官の心理、昇進、事件捜査などの要素がぎゅっと詰まった見事なものだ。

「化生」

 経産省の課長補佐が自宅マンション脇の駐車場で不審死をしているのが発見される。大手商社をめぐる疑獄事件の重要参考人であった。

 捜査をしていた特捜部の夏川は警視庁捜査一課(殺人などの強行犯を扱う)と捜査二課(知能犯を扱う)から捜査の邪魔をするなと警告される。しかし、〈重大事件であれば独自判断で動けるのが特捜〉だ。とやかく言われる筋合いでないのだが、警察組織には縄張り意識が強い。

 かまわず捜査を続けていると、死んだ経産省課長補佐と香港のフォン・コーポレーション社員とが秘密裏に接触していたことが判明する。フォンは特捜部がグレイ企業として睨んでいる相手である。

 さらに、その社員は如月フォトニクス研究所に頻繁に出入りしており、西村研究員が主導する研究に金を出している。その研究は光半導体を利用した光コンピュータさらに量子コンピュータにつながるが、研究の中身は厳重な機密保持がされている。

 特捜部は西村研究員を監視していたが、監視していたまさにその目の前の自宅で西村が毒殺された。西村のパソコンを調べると研究所にある研究データを持ち出そうとした痕跡が残されていた。

 捜査を進めるうち、その研究は意外な可能性を秘めたものであることが段々わかってくる。

 この短編はサイエンスと軍用兵器の密接な関係にからむもので、機龍警察シリーズの本編にも重大な関わりを有する。スリリングで読みごたえがある。

 

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